昨年12月、前田前会長(当時)以下役員は、稟議で、2024年度からNHKプラスで衛星放送番組を本格配信する設備整備事業を承認した。だが「インターネット活用実施計画」は地上放送番組配信が前提。前田会長ら役員の「承認事業」は放送法違反の行為だった。
稲葉・現会長は5月16日、経営委員会でこの問題を報告。メディアの報道が始まる約2週間ほど前のことだった。
だが稲葉会長はこの日、前田前会長のかかわりや責任について触れることなく、「再発防止策」のまとめ経営委員会に打診したが、森下経営委員超に拒否され激論になった。
経営委員会の本来の業務執行は「役員の職務の執行を監督する」ことだが、森下経営委員長は「経営委は平成19年の改正放送法で、個別の放送番組の編集、その他の協会の業務を執行することができない」と突っぱねた。森下委員長言えば、「かんぽ不正報道」で放送法に反し、個別番組に介入したが、前田前会長らの責任追及になると今度は逃げ腰。その資質が問われる。
7月11日、稲葉会長は経営委員会で放送法違反の責任を問われた前田前会長は退職金10%減額など関係者の処分を報告した。
職員の不祥事の管理責任を問われた海老沢勝二、橋元元一元会長が退職金100%カットされたのに比しても軽い処分だが、経営委員からは「厳しすぎる」「特別慰労金を出し、そこから減額しては」など、前会長擁護論が相次いだ。
問題発覚から2か月後の7月25日、稲葉会長は経営委員会に再発防止策を報告したが、内容はごく一般的で、今度は経営委員から「具体的な改善策を改めて示して」「経営の意思決定プロセスのより具体的なルールを設定すべきで」などの要望が相次いだ。今回の問題で、稲葉会長は内部監査結果の公表を拒んでおり、意思決定のプロセスや関係者の責任の所在が不明のままで多くの疑問が残った。
ここで思い出されるのは、元NHK経営委員長代行で企業のガバナンスに詳しい上村達男氏が「NHKの会長はすべてを一存で決められる専制君主のような存在になりがち」「一歩間違えると独裁もあり得てしまう構造になっている」と指摘していることだ。
前田前会長はじめ関係者の責任追及とともに、NHKのガバナンスのしくみにもメスを入れる必要がありそうだ。
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NHKの放送した番組についても問題が起きている。5月15日放送の「ニュースウオッチ9」は「ワクチン死」を「コロナ死」と誤認させるような報道をし、BPOが6月9日、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
7月25日の経営委員会では、問題が起きた経緯について、ニュース取材担当者が、ワクチン接種後死亡者の遺族も、コロナ禍で家族を 亡くした遺族であることに変わりはないという認識で取材・制作を進め、不適切な伝え方につながったと説明された。
しかし、NHK関係者からは、報道局には政府に忖度し、ワクチン被害をタブー視する風潮やワクチンのネガティブ情報を出さない暗黙の了解があるとも聞く。
問題は現場の取材力の劣化だけでなく、編集責任者の姿勢も影響していないか。第三者機関による踏み込んだ詳しい検証に期待したい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号
2023年10月09日
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