2023年10月27日

【好書耕読】「反自然」とは?を修正する大書=北丸雄二(ジャーナリスト)

Biological Exuberance: Animal Homosexuality and Natural Diversityby Bruce Bagemih『生物学的豊饒:動物の同性愛と自然の多様性』ブルース・ベイジミール著
 日本でもやっと真面目に論じられるようになった同性愛や性的少数者への差別は、実は紀元前のアッシリアや古代ローマの時代からありました。宗教的禁忌の次には英国の獣姦法(1533年)やドイツの刑法一七五条(1871年)など、近代法での犯罪化=ソドミー法制定が始まります。しかし犯罪とするには忍びないというフロイトやアインシュタインらの働きかけで一九世紀末にはこれを病理化する動きも起きた。ただしそれは意に反して精神異常、性的倒錯という別の差別を生みました。すべては、生殖を目的としない性行為を「反自然=神に背く」と考たのが起源です。

 欧米を中心に二〇世紀半ばからソドミー法の撤廃が始まり(脱犯罪化)、1990年にはWHOが同性愛を「性的逸脱」から外し(脱病理化)、差別の理由が失われます。しかし今でも「同性愛=反自然」とする忌避感覚は世間に遍在します。

 25年前の本書の刊行はまさに目から鱗でした。2世紀に及ぶ動物学文献を精査し、五百種もの哺乳類、鳥類、爬虫類、昆虫などの同性愛的行動を列挙して従来の「自然」観を修正した本書は、NY公共図書館の同年の25冊に選ばれ、NYタイムズでも大きく取り上げられました。生物学とは、従前の法則に沿わない対象を排除するのではなく、それを新たに取り込む法則を作る「帰納の学問」です。現在、「男女二元論」が「男女二極論」へと変わりつつあり、トランスジェンダーやノンバイナリーが注目されるのも、この本書の刊行が一つの発端だったのです。(セントマーティンズプレス5230円)
                
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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