2023年11月03日

【リレー時評】「人間の尊厳」は口先だけなのか=白垣詔男(JCJ代表委員)

 岸田文雄首相は9月20日(日本時間)の国連総会演説で、「人間の尊厳こそが2023年以降の国際目標を今後検討する上でも、国際社会の未来を照らす中核的理念となるべきだ」と指摘、「人間の尊厳を強化するために協調する国連を実現したい」と「人間の尊厳」を前面に打ち出して力説した。
 ところが、自らの政権ではどうだ。「人間の尊厳」など頭にないようにみえる差別発言を繰り返してきた自民党の杉田水脈衆議院議員を何度も重用する不可解な人事を重ねている。

 杉田は2016年、国連女性差別撤廃委員会に日本から参加した人たちについて「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」などとブログに差別的な内容を投稿した。これについて札幌法務局は、当事者らが「人権侵犯だ」と訴えていたことを受けて9月7日付で「人権侵犯」と認定、救済を申し立てた当事者が9月20日に明らかにして「ニュース」として世間に知られるようになった。

 岸田政権は昨年、杉田を総務政務官として任命。野党などは杉田議員のブログ発言を国会で追及、昨年12月になって、杉田議員はこの「発言」を撤回、謝罪した。岸田首相はその後、彼女を更迭したが、杉田発言が「人権侵犯」と認定された後の9月29日に自民党は環境部会長代理の要職に起用した。岸田が総裁として反対した形跡はない。岸田が国連演説して10日もたっていなかった。「杉田発言の人権侵犯ニュース」が広まった20日、茂木敏充自民党幹事長は記者会見で記者からの質問に「残念だと思う」と一言述べただけで、自民党の「人権感覚」の浅さを露呈させた。

 他人の尊厳を傷つけるような言動を杉田議員は、これまで数多く見せた。2018年に月刊誌への寄稿で、性的少数者について「彼ら彼女らは子供をつくらない、つまり『生産性』がない」と書いた。20年には自民党の部会で、性暴力被害を巡って「女性はいくらでも嘘をつけますから」と。ジャーナリストの伊藤詩織さんを中傷する投稿に「いいね」を押したことに関して賠償を命じられる判決も受けている。
 こうした「前歴」があるにもかかわらず、自民党が杉田議員を重用するのは「愛国保守をアピールする杉田氏に好意的な保守層を刺激すれば、選挙でマイナスになる」ので岸田政権内に杉田議員を批判する声は広がらない、と10月2日付の西日本新聞は書いている。

 しかし、「杉田氏に好意的な保守層」は、人権を侵犯する発言に対しても「好意的」なのか。「保守層」からは杉田発言についての意見は出ない。そうした「保守層」に支えられているとしたら自民党の人権感覚は岸田首相の国連発言は口だけで、国民いや全世界の人々を欺くものだと言わざるを得ない。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号

posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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