2023年11月04日
【オンライン講演】「分断にも至らぬ現実」「無関心層にどう伝える」映画『国葬の日』大島新監督語る=鈴木賀津彦
安倍晋三元首相の昨年9月27日の国葬から1年、10月3日に開いたJCJオンライン講座では、映画『国葬の日』の大島新(あらた)監督=写真=に映画制作から見えてきた日本の現実を語ってもらった。大島氏は「日本は大丈夫かという思いを深くした」と、民主主義が機能していない状況に強い危機感を示した。
国葬が行われた日の国民の姿をリアルに捉えようと、全国10都市でカメラをまわした。取材したタクシー運転手が「デモをやっても遅いでしょ。国が決めたことだから」と話している場面を例に、「自分が決める一員である感覚がない。日本社会は国の上の人が決めたら従っていく『お上主義』で、全体的に長いものには巻かれろ。おかしいことをおかしいと言えない社会だ」と捉える。
国葬に対する世論調査では、反対の声が増えていき賛成を上回っていった。しかし強固な反対や賛成ではなく、「どちらかというと」と条件が付く中間層の人たちが多く、それは「いつも周囲の目を伺っている、自分で決めない、多数派に追従する流れになっている」ことが浮かび上がったという。
なので「分断にもなっていない」とみる。分断があるとすれば「賛成か反対かではなく、関心と無関心の間にある分断だ」と話した。
問題は「おかしいことをおかしいと言う声をあげても伝わっていない現状」を指摘、特に政権に反対しているリベラルの声が伝わっていない現実をもっと直視すべきたと強調する。例えばデモのプラカードの言葉も、「政治に無関心な人たちに伝える言葉がどういうものかを考える必要がある。立ち位置によって見えているものが違うのだから」と説明。この映画は「現状を認識するためにつくった」という。
映画を観た人の反響では、「反対を訴えて行動した人たちが大勢いたのに、なぜもっと取り上げなかったのか」など、強く反対する人ほど、この映画に反発する人が多かった。
大島氏は「そういう皆さんにこそ今の現実を見ていただきたい」と話し、リベラルがもっと豊かな言葉で、無関心層など立場の違う人たちとの対話を広げてほしいと期待を語った。映画は全国で上映中。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
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