学校や教会といった市民生活の最も安心できるはずの場所で、凶弾が飛び交う。それが米国の日常となって久しい。悲劇が繰り返されされても、銃を手放せない米国人。毎年4万人もの命が銃で奪われているという。本書はこの不可解な現実の原因を探りながら、現代の米国が抱える本質を解き明かしている。
「国民が武器を所有し、携帯する権利はこれを侵してはならない」とする合衆国憲法修正第2条の存在は、よく知られたところだ。さらに米国最強のロビー団体「全米ライフル協会」が豊富な資金力を背景に政治家への強力なロビー活動を行っている。1994年の中間選挙では、銃規制法案に賛成した民主党議員に対し、報復としての批判キャンペーンを大きく展開し、大量の落選者を出したエピソードを紹介している。
特筆すべきは、本書がこうした政治的な側面に加え、「個人の自由と権利、憲法などへの異常なほどの執着、こだわり」を持つ米国人の本質まで踏み込んだことだ。
米国を熟知した国際ジャーナリストである筆者の探求はそこにとどまらず、もともと心の中に不安や恐怖を抱えた人が多いという米国の姿も捉えている。さらに隣国メキシコからの移民が標的となった乱射事件の背景には、白人至上主義を擁護し活気づけたトランプ前大統領の存在があると指摘する。
現代の米国が抱えるある種の闇へと迫ったうえで、差別や陰謀論などがはびこる理由の一端もあぶり出した。銃問題を入り口に、米国とは何かを考える機会を、読者に与えてくれている。(花伝社1500円)
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