2023年11月19日
【23年度JCJ賞受賞者スピーチ】「黒い雨訴訟」あの戦争は終わっていない ジャーナリスト・小山美砂さん
実は私、毎日新聞社を昨年末に退職しました。
本を出す数カ月前の22年4月、最初の赴任地、広島支局(2017年)から大阪社会部に異動。ところが広島県の黒い雨訴訟の当事者の方から「今もまだワシのところに被爆者健康手帳がこん」「明日の命もわからんなかで、毎日、郵便ポストをあけて待つんじゃが、広島市から被爆者として認められない、どうしたらええんじゃ」などの電話が、出身地の大阪に戻っても届くのです。
担当の府警の建物内でそうした声を聞くと、被爆者と一緒に歩んでいない、何の力にもなれていない自分が苦しくなってきました。やっぱり広島の原爆を伝えていきたい、長崎県でも同じような状況で救われていない人がいると思い、(入社して5年)「早すぎる」というご意見をいただいたのですがを決断しました。
4月に広島市に移住し、フリーランスとして頑張っています。
いま、被爆者の方も私も「新しい戦前」に危機感を抱いています。「あの戦争はまだ終わっていない」が被爆者の認識であり私の認識です。原爆被害の救済が終わっていないからです。
一度戦争を始めると、戦後78年たっても、もしかしたら1世紀が過ぎても終われないということを黒い雨の被爆者が教えてくれています。だからこの問題を伝えていきたいのです。
勝訴後、新しい制度はできましたが、そこでも否定された人が生まれ、新しい裁判が始まっている。そういう方たちを支えたいと、支援と取材の生活をしています。
この本には、諦めずに闘い続けている新しい裁判の原告の皆さん、救済された皆さんが紡ぎ出した言葉を記しました。この本の意義をJCJが評価してくださったおかげで、私もこの道を歩んでいいのだと、すごく励まされました。
私は大学でジャーナリズム論を学び、ジャーナリズムの仕事を尊敬しその力を信じて記者になりました。フリーランスになり、ジャーナリストの肩書に恥じない仕事ができているか悩み、迷いながらの9カ月でしたが、賞に恥じない仕事をしていきます。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
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