2023年11月20日

【おすすめ本】原田正治 松本麗華『被害者家族と加害者家族 死刑をめぐる対話』―「罪を償う」とは 新たな論点を提供する一冊=鈴木耕(編集者)

 まずタイトルに身構える。内容は厳しい意見の応酬なのではないかと。しかし読み進めると不思議なやさしさに満ちた対話であることに気づく。対話者は、弟を殺されながら加害者に面会してから死刑制度に疑問を抱き始めた原田正治氏と、オウム真理教の松本智津夫氏の3女である松本麗華氏。このふたりが互いに相手のことを思いやり、気づかいながら、ゆったりと話を進めていく。

 言葉の端々に、辛さや無念さ、切なさがにじむけれど、どこか、陽のあたる縁側でお茶を飲みながら話しているような温かみも感じられる。なぜ原田氏が「死刑制度」そのものに疑問を持ち、「廃止論」にまで踏み込むことになったのか。今でも犯人を長谷川くんと呼ぶ理由とは何か。
あの麻原彰晃氏≠父に持ったことの意味を、ひたすら社会の指弾に耐えながら考え抜いていく松本氏。被害者家族と加害者家族であることの垣根を超えて、ふたりは共感しあい理解し合う。まことに不思議な対話集になっている。

 ことに、松本氏に科せられた過酷な人生は、読むだけでも切ない。ほとんど意思疎通ができない状態の父との面会。それでもなお、治療による回復によって、異界に彷徨う父の心を取り戻したいと願う娘の痛ましさ。それを「死刑」によって断ち切られたことの悲哀。「罪を償う」とはどういうことなのか。対話は最終的に、死刑制度そのものへの懐疑を抱卵して終わる。被害者家族と加害者家族の対話という稀有な小冊子が、新たな方向からの「死刑廃止論」を生んだと言えよう。(岩波ブックレット、630円)
   
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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