2023年11月23日

【23年度JCJ賞受賞者スピーチ】ルポ死亡退院 精神医療・闇の実態 見て見ぬふり構造描く=NHK・Eテレ 青山浩平さん

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  『ルポ死亡退院』は、八王子にある精神科病院の虐待の実態、そして病院がいかに必要悪として成立し、社会が見て見ぬふりをしているのかをテーマに制作しました。
 精神科病院を取材したETV特集は3本目になりますが、意図したのは社会の構造を描くことでした。
 2018年放送の1本目「長すぎた入院」は、東日本大震災の原発事故後、原発近くの5つの精神科病院の1000人近い入院患者達の実態に迫った番組です。30年を超す長期入院の人が多く存在し、ほとんどが入院治療の必要なしと診断されていました。
 日本は精神科病院大国。世界の病床の二割が集中し、入院期間も他の先進国と比べ突出しています。必要のない長期入院は戦後、国の隔離収容政策によってもたらされました。

 2本目は2021年放送の「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」。新型コロナ感染拡大から、都立松沢病院の新型コロナ専用病棟に一年間密着しました。クラスターが起きた東京中の精神科病院から患者が送られてくる中、精神病差別とも言える合併症治療の貧困、東京にもレベルが低いと言わざるを得ない病院が多く存在すること、その中で当事者の方が犠牲になっている実態が見えてきました。

 原発事故、新型コロナの取材を通して見えてきた精神科病院を取り巻く環境、取材の中で浮かび上がってきたのが滝山病院です。取材は内部告発をきっかけに始まりました。膨大な音声と映像、内部資料、そして弁護士が撮影した映像です。家族、病院、行政がこの病院を必要悪として求めていたこと、また、死亡退院の割合が8割近いにも関わらず、見て見ぬふりがされてきたこと、そのそれぞれに対して取材を深めていきました。

 原因は一つではありません。番組は反響を呼びましたが、取り巻く環境は改善しているとは言いがたい状況です。病院への強い行政処分はいまだに行なわれず、滝山病院は今も稼働しています。入院患者は番組放送後から8月までの半年間で22名も亡くなりました。精神科病院の実情に少しでも多くの関心が寄せられ、状況が改善していくよう取材を続けていきたいと思っております。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 23年度JCJ賞受賞者スピーチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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