2023年11月25日
【23年度JCJ賞受賞者スピーチ】市民と核兵器 ウクライナ 危機の中の対話 現実から目をそらさず NHK・Eテレ 岡田 亨さん
戦争中の核大国のトップが核の使用をほのめかす、これは歴史上初めてのことではないか。人類が作り上げてきた危ういシステムの矛盾の最先端にウクライナが今、立たされていると感じました。
番組は日本で育ったボグダン・パルホメンコさんという1人のウクライナ人を軸に、いまウクライナの人たちが核の脅威にどう向きあっているのかを描いています。チームワークで作った番組ですが、ボグダンさんなしには番組はできませんでした。
ボクダンさんとは、今年の始めからディスカッションをしてきましたが、全く先が見通せない企画でした。
ボグダンさんの祖父ウラジミールさんは、ウクライナが核の放棄を決めた時の教育大臣で科学者です。ロシアの侵攻後も「ウクライナが核兵器を手放したのは正しい選択だった」と語っていました。これに対してボクダンさんは、「あの時、核兵器を手放さなかったらロシアの侵攻はなかったのではないか、手放すべきではなかった」と考えており、実際に口にもしていました。
そのボクダンさんが、ウクライナの人々と対話する中で、理不尽な暴力にさらされているウクライナの人たちの強さを引き出してくれました。そして番組の中で、彼自身の考えも変わっていきました。
番組の旅人になってくれたボクダンさんの祖父への尊敬、そしてやさしく、別の地平を指し示していたウラジミールさんの言葉の強さ。それは私たちにも、不安な気持ちの次の日には自信を与えてくれるものでした。
番組にはアメリカのオバマ政権で国防長官を務め、核兵器なき世界を提唱したウイリアム・ペリーさんにも出てもらいました。
ペリーさんの出演交渉は難航しました。本人は「もう引退している」と固辞しましたが、粘りに粘り、ウラジミールさんの動画を見てもらったのです。それが彼の心を動かしたのだと思います。
ウラジミールさんとペリーさんが通じ合ったのだな、同時代に違う立場にいた人の思いが通じ合い、後の世代に残さなければいけないメッセージになったのだと思います。
ウクライナの現実には立ちすくむ思いですが、だからこそ目をそらさずにこれからも番組を制作していきたいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
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