2023年12月19日
【北海道】映画『ヤジと民主主義』奪われた権利 取り戻そう つづく過剰警備 無関心か危機感もつか 山ア祐侍(映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』監督・HBC報道部デスク)
僕たちの権利が失われつつあるのを地方で暮らしていると感じる。安心な暮らし、交通手段、美しい自然、働く場所、地域社会の絆。深刻なのは、失っているのが自分たちの権利だと気が付かない人が少なくないことだ。映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』は、奪われた権利を取り戻そうと闘う人たちの物語である。
2019年7月、札幌で参議院選挙の応援演説をしていた安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした男女が警察に強制的に排除された。政権批判を封じ、表現の自由を奪ったとして市民らが抗議し、排除された男女2人が北海道警察を所管する北海道を相手に裁判に訴えた。2020年4月に放送したドキュメンタリー番組は第63回 JCJ賞を受賞した。
映画は、画期的な地裁判決、その後の安倍元首相銃撃事件や岸田首相襲撃事件をめぐる警備の状況、そして不可解な高裁判決まで追加取材し、100分間にまとめた。
内容に一番厚みを持たせたのは、当事者たちの「排除前」と「排除後」の物語だ。とりわけ当時大学生だった桃井希生さんは小さい頃から吃音に悩み、一時は生きる意味さえ失っていた。「排除後」は札幌地域労組に就職し、年配の男性が圧倒的に多い労働組合のなかで20代の女性という稀な存在となった。ベトナム人従業員の雇い止めを撤回させたり、ストライキを行い路線バス会社から待遇改善を引き出したりして、労働者の権利を守ろうと日夜奔走している。
翻ってみると、西武池袋本店で労働組合がストをしたとき、インターネット上では「迷惑」という声が相次いだだけでなく、NHKもニュースで「客は置いてけぼり」というインタビューを伝えた。今の日本ではストライキやデモも、ヤジを飛ばすことも「迷惑」だと攻撃される。
10月に行われた参院徳島・高知の補欠選挙では、応援演説する岸田文雄首相に聴衆の男性が「増税メガネ」とヤジを飛ばし、警察官が過剰警備をした。映画公開を前に日本記者クラブで記者会見し専門家の見解と合わせて報告=写真=したが、これを問題視するメディアはほとんどない。
僕たちの権利は、懸命に握っていないと常に奪われかねない。そして今は自ら放り投げているのではないかという危機感を覚える。その現状を見えなくさせているのは、人々の無関心だ。この映画についても「4年前の、終わったこと」と関心を寄せない人もいる(しかも観ないで)。違う。現在進行形の問題であり、僕やあなたに降りかかる問題なのだ。この映画が受け入れられるか否かは、この国の民主主義に危機感を持つか否かのリトマス試験紙だと感じている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年11月25日号
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