いとうせいこう氏といえば、作家であり、クリエイターであり、音楽シーンを席巻するラップのパイオニア。NHKの朝ドラに登場したりもする。そんなマルチな才能の持ち主が緊急出版したのが本書である。
テーマは「日本の電力」だ。原発に代わる再生可能エネルギーの専門家、5人に自らインタビューして現状、未来への可能性などを聴いている。
いとう氏が、なぜ電力なのか。答えは前書きにある。「僕自身が『いとうせいこう発電所』を福島に持ち、太陽光でつくった電気を限られた契約者の方に売ってみているからだ」「誰でも発電できる世の中になったのだとわかりやすく構造の変化を示したいからであった」。ところが昨年末の岸田内閣の大方向転換、原発政策回帰以来、にわかに再生エネは旗色が悪くなったかに見える。そうした状況に深刻な危機感を抱いたからだという。
インタビューでは電力高騰の理由を元東京電力社員にからくりを聴く。一方で、蓄電池を活用したオフグリッドの自由さ、太陽光発電+農業のソーラーシェアリングの未来などを当事者に語ってもらっている。
また福島県南相馬市で電気の産直を軸に復興を目指す農家の意見や、エネルギー転換が進む欧州の現状を知る専門家の「原発は高コスト」という分析も収録している。
いとう氏は、2011年3月の福島第一原発事故以来、被災地に足を運び、被災者の声を聴いてきた。そして時代遅れの原発の限界と罪を痛感。電力をみんなで分けあうシステム構築を模索している。そして叫ぶのが、このひとことだ。
「明日はこっちだ!」
(東京キララ社、1600円)
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