書名の「記者狙撃」と は、1979年に起きた中越戦争(中国とベトナムの国家間戦争)の3月7日、ベトナム北部ランソンで、「赤旗」特派員の高野功記者が、中国軍の狙撃を受けて死亡した事件のことである。
中国は、2月17日に陸上国境全線でベトナム領内に侵攻したが、3月5 日には「懲罰」の目的が 達したとして撤退を発 表。だがランソン市内には中国軍が引き続き残留し、戦闘が続いていることを、高野記者の死は身をもって世界に示した。
著者は、この高野氏の取材に別の車で同行しており、高野氏が亡くなった際には同時に狙撃を受け、九死に一生を得た体験の持ち主だ。本書では事件後40年以上を経て、著者が明らかにした事件の経緯も書かれている。
当時ベトナム研究者になったばかりの私にとっても、高野氏の死は衝撃的だった。さらに勇気あるジャーナリストによる戦場からの報道が、超大国アメリカの敗北に帰結したベトナム戦争の終結からまだあまり時間が経過していない当時、最前線からの報道を試みた高野氏の勇気ある行動には違和感はなかった。
ところが、その後、今日のウクライナに至るまで、繰り返されてきた大国による侵略戦争では、危険がある紛争地にジャーナリストが行くこと自体を、非難がましく見るような傾向が広がっている。
本書は、このような傾向は、侵略者が行う戦場での犯罪行為を隠蔽する手助けになっていると指摘し、「侵略戦争」には 断固反対、「抵抗戦争」は断固支持、という立場を貫く重要性を、今日のウクライナの事態も踏まえて訴えている。戦場フォトグラファーとして活躍してきた著者の言葉には強い説得力がある。(花伝社1700円)
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