2024年01月20日

【23図書回顧―私のいちおし】100年先の農、食を巡るシステムとは=鈴木久美子(東京新聞編集委員)

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 平らな土地に木を植えて、落ち葉を堆肥にして土を肥やす。埼玉県西部で300年以上続いている武蔵野の落ち葉堆肥農法が今年、国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産に認定された。自然に即した伝統的な農法が今も農業として成り立っていることが条件で、生物多様性を高め、地域の文化を培うといった点も審査される。2002年開始のこの制度では、環境、経済、文化など現代の課題を評価していることに、取材した折、感心した。

 評価の基準が変われば価値観も変わる。真田純子著「風景をつくるごはん 都市と農村の真に幸せな関係とは」(農山漁村文化協会)は、100年先に向けて農業や農村、食を巡る社会のシステムを変える一歩を探る。
 景観工学が専門の大学教授である著者は、徳島に赴任したのを機に農村の風景を研究した。石積みという伝統的な技術を身に付け、伝える活動もしている。農村の風景は農業という営みの結果であり、農家がどのような農業を行うかは、消費者の購買行動や農業政策に左右される―そうした関係性を「風景をつくるごはん」と名付けた。

 高度成長以降、生産性や効率を軸に農政、流通、消費が展開した結果、中山間地で過疎化が進んだのが現状だ。これからは環境を軸に据えた農業が経済的に成り立ち、農村の暮らしの豊かさにつながる風景ができないかと著者は考える。そこに関わりのない人はいない。近年いち早く環境保全の視点を組み入れたEUの農業政策も詳細に紹介し、参考になる。

 地方の過疎化はイタリアでも同様だ。島村菜津著「世界中から人が押し寄せる小さな村 新時代の観光の哲学」(光文社)は、世界的に注目される同国の「分散型の宿」と訳される取り組みを紹介している。山村で増える空き家を宿泊施設にして、自然や地元の暮らしそのものを楽しむ「本物を求める」旅の提案だ。地方と都市の豊かな関わりの模索でもある。
                   
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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