繁華街での路上売春は、極めて摘発リスクの高い行為である。普通に考えれば「なぜわざわざそんな危ない真似をするのか」「風俗店やアプリで相手を見つければいいのでは」と思うだろう。
売買春に関わる男女にとって、路上のメリットは「相手の顔が見える」ことにある。風俗店ではサービスの直前まで相手の顔が見えない。アプリを介した出会いでも同様だ。売り手と買い手の双方にとって「事前に顔が見える」ことによる安心感は大きい。
「今すぐ現金が得られる」という点もメリットだ。風俗店で働くためにも、面接や身分証の提示などが必要になる。路上であれば、そうした手続きを踏まずに、その場で稼げる。
本書は、こうした「都合の良い果て」で生きる女性たち、その背後にある社会課題について、丹念な取材を通して明らかにした力作である。
路上売春の背景には虐待歴や精神疾患などの福祉的な課題があるが、彼女たちにとって福祉は「都合の良くない」世界である。シェルターに入ればスマホは使えないし、夜職で稼ぐこともできなくなる。しかし、「都合の良い果て」にもずっといられるわけではない。
取締や啓発と並行して、彼女たちが「都合の良くない世界」でも生きられる耐性やスキルを身に着ける機会を提供すること。そのために必要な他者との関係性を再構築し、社会への信頼を取り戻すこと。困難な茨の道だが、本書の中には、それらを実現するためのヒントがたくさん詰まっている。(ちくま新書900円)
2024年01月28日
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