2024年02月06日
【焦点】春名氏、内外情報機関をえぐる 金大中拉致とつながる「別班」 ハマス、穏健化を偽装 「KGB」消滅で露侵攻=橋詰雅博
昨年12月17日のJCJオンライン講演会は、「国の内外で蠢くスパイ組織を抉り出す」をテーマに元共同通信記者のインテリジェンスに詳しいジャーナリスト・春名幹男氏=写真=が解説した。
TBSドラマ「VIVAVT(ヴィヴァン)」(昨年7月から9月放送)の題材になった陸上自衛隊の秘密情報組織「別班」。ドラマが大ヒットしたことで注目された別班出身の元陸自三佐、坪山晃三(故人)に春名氏は、1973年8月8日、日本のホテルから拉致された金大中事件真相の追及で取材した。
この年の6月に自衛隊を退職し、都内で調査会社を立ち上げた彼は、在日韓国大使館の金東雲一等書記官(主犯格)から「(滞日の)金大中の居所を調べてほしい」と依頼された。坪山は陸自現役のころから、金は韓国中央情報部(KCIA)所属のころから二人は付き合いがあり北朝鮮情報などを交換していた。この関係から推測すると、別班は少なくとも韓国情報機関とつながりあった。
春名氏は「情報機関は情報収集と秘密工作が任務。日本は情報収集が基本ですが、政府が存在を否定する別班は秘密裏の組織ですので任務はあいまいです」と語った。
世界で耳目を集めるガザ戦争。対外情報機関「モサド」、国内治安機関「シンベト」、軍情報機関「アマン」などからなる鉄壁な情報網を築くイスラエルは、なぜハマス奇襲を許したのか。イスラエルから21年に攻撃を受けたハマスは、それ以降、突然「イスラエル消滅」を言わなくなり、「穏健化」に変貌。イスラエルは警戒を怠り油断したという春名氏はこう続けた。
「パレスチナはヨルダン川西岸を統治するファタハ(パレスチナ民族解放運動)とガザ地区を支配するハマスの二つの勢力が競い合っている。イスラエルのネタニヤフ首相は、9月にカタールに派遣したモサドの長官を通じハマスへの資金援助継続を依頼した。穏健に転じたハマスが勢力拡大すればパレスチナの分断が深まってパレスチナ建国を阻止できるとネタニヤフは考えた」「防諜機関『8200部隊』は一年前からハマス軍事部門が使う無線通信の盗聴を止めた」
政府も情報機関もハマスの偽装に騙されてしまった。
死んだふり作戦≠成功させたハマスはガザ戦争でイスラエルの非道ぶりが広く伝わりパレスチナ建国の国際世論が高まることを期待している。
ロシアとウクライナの戦争ではウクライナ情報機関が一変したのがロシア侵攻の引き金になった。
「実はソ連崩壊後も旧ソ連構成国を結ぶ秘密情報機関KGB(国家保安委員会)ネットワークは健在でした。ところが米国の介入で親露政権が倒れた14年のウクライナ『マイダン革命』以降、米CIAは巨額な資金を投入してウクライナ軍などを強化した。米国の差し金で保安局や国防省情報総局の親露派幹部ら数十人は暗殺され『KGBウクライナ支局』は消滅。KGB出身のプーチンは復讐のため侵攻を決断した」。意外な事実を春名氏は明らかにした。
ニュースの裏側を垣間見た春名講演だった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
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