旧ジャニーズ事務所は昨年8月29日、外部専門家による特別チームの『調査報告書』を受け、ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年達への性加害の事実を認め謝罪した。『調査報告書』によれば少年たちはオーディションでジャニーズJr.のメンバーとなり、「合宿所」と呼ばれる施設などで性被害に遭っていた。NHKは「ザ少年倶楽部」などの番組制作のためとして、放送センターの西館7階にあるリハーサル室を、通常の番組制作では考えられないほど頻繁に、長時間にわたって旧ジャニーズ事務所に使用させ、まともに管理していなかった。そのため、リハーサル室では民放の番組のリハーサルや、事務所のコンサートのリハーサルまで行なわれていた。さらに、ジャニーズJr.のオーディションも頻繁に行なわれ、それにNHKの関係者はまったく関与していなかった。
長年放置の責任は
昨年の10月9日のNHKニュース7は、NHK内のトイレで性被害を受けたという人物の証言を放送した。この報道を受けてNHKは「ザ少年倶楽部」の歴代のチーフ・プロデューサーに聞き取りをしたが、その事実を知っている人はいなかったと発表した。
しかし、「ザ少年倶楽部」の番組スタッフたちの多くは、西館7階奥のトイレで性加害が行なわれていたことに気が付いていた。ジャニー喜多川氏は「ザ少年倶楽部」への出演という「エサ」で少年たちを誘き寄せ、709リハーサル室で「狩り」を行い、トイレで「捕食」までしていたのである。まさに、公共放送が子どもへの性加害に加担してしまったという深刻な事態である。NHKは公共のリソースであるリハーサル室を、なぜ旧ジャニーズ事務所に自由に使わせていたのか、性加害に気が付いている職員がいたのに、なぜそれが長年放置されたのか、調査・検証して公表する責任がある。
賃貸期間説明を
NHKと旧ジャニーズ事務所の間には、その他にも、事務所による職員への接待、コンサート等への招待、NHKによるファンクラブへの便宜供与などなど、様々な問題が存在するが、特に深刻だと思われるのが不動産賃貸借の問題だ。NHKに近い公園通り沿いに、旧ジャニーズ事務所グループが所有するパークウエイスクエア3というビルがあり、その3階〜7階にあるオフィス部分(約750坪)をNHKが借りている。現在はその4階〜7階には「PS3ポスプロセンター」というポストプロダクションの施設(MAルーム、編集室、ECSなど)が設置され、NHKの番組制作担当者に重宝がられているが、この施設の運用が始まったのは2021年10月であり、賃貸借契約が結ばれたとされる2019年7月前後から2年以上にわたって、NHKはこのオフィスを不定期にしか使用していなかった。記者会見で記者がこのビルについて質問してもNHKの担当者は、「個別の契約にあたることはお答えしていません」として一切説明しようとしない。NHKが説明しないので正確なことは分らないが、仮に募集価格の坪単価約4万円で借りているとすれば、年間の賃料は約3億6千万円にもなる。10年間の定期借家契約だとすれば、保証金を含めて総額は40億円を超える賃貸借契約である可能性がある。NHKは契約内容の詳細と契約が結ばれた経緯を公表するとともに、放送センターの建て替えのためのポスプロ施設を、なぜ繁華街のど真ん中にある旧ジャニーズ事務所グループ所有の(賃料が高額な)ビルに設置する必要があったのかについて、合理的な説明をする責任がある。
なぜ頑なに拒む?
NHKの稲葉延雄会長は、記者会見で記者からの第三者委員会を設置しての調査・検証の必要性を指摘されても、「報道機関として自主自律を堅持する立場から、番組やニュースで取り上げていく」という意味不明な理由で、第三者委員会による調査・検証を頑なに拒み続けている。しかし、旧ジャニーズ事務所が第三者委員会による『調査報告書』を公表し、TBSが外部委員を含んだ独立性の高い特別調査委員会による旧ジャニーズ事務所問題に関する『報告書』(昨年11月26日)を公表した今日、公共放送が子どもへの性暴力に加担してしまったという深刻な問題について、NHKが第三者委員会を設置しての調査・検証・再発防止策の策定をせずに済ますなどということは、絶対に許されない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
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