これは急激に「原発回帰」に向かう日本と日本人の横っ面を思い切り引っ叩いて、忘れかけている原発事故の記憶のリマインドを迫る書である。
本の構成は「復興」から事故プロセス、原発マネー、核兵器、脱原発と読み手の関心を誘うように蛇行するが、「原子力ムラ」「安全神話」「規制の虜」「原発ゼロ」「避難計画」・・・断続的に挿入されるこの12年間の新聞記事は、事故直後には日本の原子力体制の矛盾を暴き、批判する言説が溜まったマグマのように噴出していたことを思い出させる。同時に著者が直撃取材したキーパーソンたちの闘いの跡からは、なりふり構わず窮地を脱しようともがく原子力ムラの分厚い岩盤が目の当たりになる。
原子力委員長代理としてムラの排除の論理に当惑し続けた鈴木達治郎、電力会社と官僚の根腐れた癒着を語る元経済産業省官僚の古賀茂明、巨大津波を予測しながら無視され、原子力規制委員として活断層の影響を値切る関西電力により切られた地震学者の島崎邦彦、大飯原発3,4号機の運転差し止めを命じた元福井地裁の裁判長、樋口英明・・・権力の間近で、真っ当な判断を試みた彼らの抵抗は悉く挫折していく。
その一方で著者は汚染水放出に苦しむ漁業者や、帰る見込みも立たない帰還困難区域からの避難者など生活を壊され、追い込まれたまま忘れ去られようとする人々への眼差しを保ち続ける。
「忘れてはならない。人々の犠牲のうえに原発は動いている」(「おわりに」から)
所属する新聞社から記者職を追われながらも現場に通い続けるジャーナリストの入魂に心が熱くなる。文春新書(1091円)
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