2024年02月25日

【自民党裏金事件】大事件暴いた小さな疑問 その秘密は しんぶん赤旗日曜版・山田記者に聞く=矢野 昌弘(運営委員)

 
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 上脇博之神戸学院大学教授の告発で表面化した自民党派閥パーティーを巡る裏金問題は、年をまたいで岸田政権と自民党政治の闇を直撃する大事件となった。端緒の端緒は22年11月の「しんぶん赤旗日曜版」記事。大手メディアは検察が動くまで報道できなかった。同紙の記事は、公開されている政治資金収支報告書を丹念に拾い、分析した文字通りの調査費報道。その裏側を同紙編集部の山田健介記者=写真=にインタビューした。聞き手・矢野昌弘(運営委員)

 ―自民党派閥の「政治資金パーティ」は、裏ガネ作りの温床になっていました。安倍派「清和政策研究会」と二階派「志帥会」は家宅捜索され、池田佳隆衆院議員は逮捕されました。事件をどう見ていますか。
 山田 自民党のある幹部は「最大派閥の座長と『5人衆』がすべて特捜部の事情聴取を受けるなど前代未聞。自民党の歴史でもこれまでなかったことだ」と語りました。
 読者からも「政治が大きく変わるのではないか。スクープに勇気をもらった。ありがとう」と激励の声が寄せられています。捜査で明らかになってきたのは私達の予想を遥かに超える裏金の多額さと手口の悪質さ。今後の展開を注視しています。

自民党弁護士も法令違反指摘
―端緒のスクープは一昨年22年の11月6日号ですね。
 山田 はい。「パー券収入脱法的隠ペい2500万円分不記載」「岸田派など主要5派閥」と報じましたが、大手メディアの後追いはありませんでした。でもある自民党幹部は「これが事務的ミスではないことはすぐわかった。特に安倍派の不記載の額が突出していて、ただごとではないと思っていた」と語ってくれました。
 23年12月23日付「毎日」が「22年11月、共産党の機関紙『しんぶん赤旗』が安倍派を含む自民5派閥についてパーティー券収入が過少に記載されている疑惑を報道した後。自民党のコンプライアンス担当の弁護士が、安倍派側に対して法令違反 の疑いを指摘したという」という興味深い記事を載せいいます。

チケット購入団体から取材
 ―それにしても、不記載をどうやって見つけましたか。
 山田 日曜版の若い記者が電気技術者らの政治団体「全友会」の政治資金収支報告書を調べるなかで、奇妙なことに気づきました。麻生派のパーティー券計40万円分を同派所属国会議員3人の名前で10万、20万、10万と分割購入していました。安倍派の「清和政策研究会」に対しても同様で、それで取材しました。全友会の事務担当者の説明は「各議員からパーティーの案内があり、それぞれ分けて入金した」。政治資金規正法では、1回のパーティーで20万を超えるチケット購入者を収支報告書に記載する義務があります。それを逃れるための脱法的手法だと気付きました。

脱法手口 主要5派閥も疑う
―そこから、ここまで大きな事件につながった。
 山田 私は「桜を見る会」のスクープもしましたが、私たちは端緒を見つけたとき「一国会議員が個人的に単発でやった」とは思いませんでした。この脱法的手口が組織的系統的に引き継がれているのではないかと疑い、自民党の主要5派閥全てでやられていないか…と深掘りしました。調べてみたら、同じような事例がいくつも出てきた。これはいよいよ「氷山の一角」だなと思いましたし、裏金作りを闇を感じました。
 ―東京地検に何度も告発しているた上脇博之神戸学院大学教授との連携は。
 山田 上脇教授は、当初から、裏金化している可能性を指摘し、早くから重大な事件だと認識していました。頻繁に連絡を取り合い、助言を受けながら取材を進めました。

大手メディアは検察頼み
 ―事件が動き出してからの他のメディアの反応はどうでした?
 山田 他紙の記者の関心はもっぱら「東京地検特捜部が動くか」。この話をしても「時効は3年だから大した額にならない」「それじゃあやっぱり特捜部は動かないでしょうね」と、関心は薄かったです。
 「赤旗」は検察への取材ができませんから。「検察が動くか」でなく、どんな裏金づくりのカラクリがあるのか、解き明かしていけばニュースになるとやってきました。時効にとらわれず、10年前まで遡り、調べる政治団体も幅を広げるなどして縦横に取材を展開しました。
 ―取材のギアを段々と上げていった。
 山田 派閥のパーティー券を購入した政治団体の会計責任者や事務担当者に電話やメールで問い合わせを重ねました。多くの団体が、パーティー券購入の動機や、議員側からの具体的依頼のされ方、出金の処理などについて詳細に説明してくれました。団体側には、収支報告書に記載しており、やましいところはない、という意識が働いたと思います。「赤旗」にも一生懸命、説明してくれました。

公開されている収支報告書
 ―政治資金報告書はいまインターネットで公開され、誰でも見られるのですね。
 山田 そうです。総務省のホームページでチェックできます。また、都道府県の選挙管理委員会もインターネットでの公開を進めており、公開していないのは新潟県だけ。いまは全国どこからでも、収支報告書に手を触れることができます。取材拠点がどこにあるかが、ハンデになることはありません。
―それを調べて、ここまで来た。収支報告書を調べる意義は?
 山田 収支報告書には、私達が全然、解明できていない情報がたくさん詰まっていることに気付きました。長年にわたる自民党の裏金づくりを見逃してしまったという反省もあります。あまり重視していなかった支出について地道に読み込みたいと思います。
―ところで、この事件取材で、政党機関紙ゆえのハンデを感じたことはないですか。
 山田 ありません。あるとすれば、「赤旗」の質問には答えず、「赤旗」記者がいない場で、虚偽の説明を他紙の記者にしている人がいるぐらいでしょうか。会見の場で、記者が誰もそのことを突っ込まない。それで疑惑の当事者に逃げられてしまう悔しさはありました。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
 
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 事件 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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