国民生活を苦しめてきた「異次元緩和」は、安倍晋三元首相が「日本銀行は政府の子会社」と公言してはばからず、自ら選任した黒田東彦前日本銀行総裁とタッグを組み、推進したものだった。
「2%の物価上昇」を旗印に、大幅な金融緩和を行い、経済に好循環をもたらすとの旗印を掲げ、中央銀行の“禁じ手”とされてきた手法を次々と弄してきた。その結果、「好循環」どころか日本を「成長が止まった国」「賃金が目減りする国」に陥らせた。
ベテラン経済ジャーナリストによる本書は「異次元緩和」策の舞台裏から日銀総裁の交代劇まで、10年余にわたる動きをヴィヴィッドに伝える。それはまた、当事者である安倍・黒田両人をはじめ政府・自民党や日銀などの関係者が、どんな役割を果たしたか、詳細に辿った日本金融史の貴重な記録でもある。
「これまでとは次元の異なる金融緩和」との黒田発言が由来の「異次元緩和」なる暴走車は、世界にも例を見ない異質さで、迷走し続けた。その結果が、日本経済の長期低落であり、格差拡大、 国民生活の破壊だった。アベノミクス旗振りの張本人が亡くなっても、依然ブレーキはかからないままだ。
著者は初の学者出身・植田和男総裁について、「『異次元の世界』から早く脱出し、元の正常な姿に戻そうと、もがいているように見える」と評している。
だが今なによりも重要なことは、依然疾走し続ける“暴走車”を止めることだ。それができなければ、日本経済と国民生活は、奈落の苦しみが続くのは必至である。(岩波新書960円)
この記事へのトラックバック