2024年03月06日

【寄稿】滋賀原発損傷・羽田事故原因の報道 真実を伝えているのか=松田 智(JCJ会員、元静岡大学工学部准教授、工学博士)

             
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 能登地震半島をめぐって「志賀原発は大丈夫」とのニュースが流れ「デマに要注意」とのことだが、私の見るところ、こと原発・気候変動・新型コロナ・リニア新幹線に関しては、どれが真実でどれがデマであるのか、非常に分かりにくくなっている。なぜなら、これらに関しては産・官・学・政・報の五者で強固な「利害共同体=ムラ」が形成されていて、一見科学的・中立的・公正な報道に見えても、実際は巧妙な宣伝だったりすることがしばしばあるからだ。
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 能登地震では志賀町は震度7で揺れた。報道では、志賀原発では細かなトラブルはあったが大事には至っていない、となっている。しかしNHKのネット報道を見ると、北陸電力の発表と実際に起きた現象の間には、結構な差がある。

ズレは想定済み?

 特に注目するのは、発電所敷地内で最大35aもの段差ができ、その写真が掲載されている点だ。発電所内で変圧器が壊れて電気が受けられない事態も発生している。これらを勘案すると、震度7の地震は原発にかなりのダメージを与えているのではないかと推測できる。なぜなら、通常、耐震基準の審査というのは、地面や建物の基礎部分に異常が無い状態で「震度○で動く」ことを想定したシミュレーションその他で判定するからだ。地面が隆起・陥没する、ずれ動く、などという事態は想定していない。地面が動いてしまったら、想定が文字通り「根底から」崩れてしまう。ところが実際には、「地面の上下左右運動」が観測されているのだ。

 原子炉本体を収容する建屋と発電施設の建屋は通常別棟で、両者は多数の配管で繋がっている。配管が短時間に35aもずれ動いたらどうなるか。普通の鉄管なら簡単にちぎれてしまうだろう。こんな事態も原発では「想定済み」なのだろうか。実際はどうなっているのか、ぜひ知りたい。

 またこの原発では、想定される地震の強さは1号機が600ガル、2号機は1000ガルで審査されている。しかし気象庁の観測では、志賀町の揺れの最大加速度は2826ガルだ。NHK報道では原子炉建屋地下2階で震度5弱相当となっているが、地上でどうだったかは出ていない。志賀町全体が震度7だったと考えるのであれば、1000ガルまでの耐震強度では全然足りない可能性がある。つまり原子炉本体とその周辺部にも相当深刻なダメージがあったと考えるのが自然である。しかし、原子炉本体関連のニュースは全然見当たらない。実際に大丈夫なら、その証拠写真でも見せて、国民と地元住民を安心させたら良いのに。

 今回は、操業停止中の地震だったので難を逃れたが、もし通常運転中に建屋を繋ぐ配管がちぎれてしまったら、福島よりずっと短時間で炉内水位が下がり、あっという間に空焚き状態に。このような事態が生じたら、避難計画はどう発動されるのか。志賀町が策定した計画によれば、対処法には屋内退避と避難があるが、家の倒壊が数多く窓などの破損も酷かったし、津波と火災もあったので、そもそも屋内退避はあり得なかった。また単に「避難する」とあるが、今回のように道路が至る所で寸断された状況で、避難など事実上困難だっただろう。現に今回は孤立集落が多数見られた。

倒壊も福島1号機

 福島第一原発でも、耐震性が大いに危惧される事態が起きている。1号機の重い圧力容器を支える鉄筋コンクリート製の土台下部が、溶け落ちた核燃料(デブリ)の高熱によってほぼ全周にわたってコンクリートが崩壊し、鉄筋がむき出しになっていることが明らかになったからだ。この事実を基に、このままでは震度6強で圧力容器が倒れてしまうとの警告本(『差し迫る、-福島原発1号機の倒壊と日本滅亡』-森重-晴雄)が出されている。小冊子だが、原子力の専門家が具体的な数字を挙げて検証しているので説得力がある。本書では「1号機の倒壊を防ぐ方法」(第2章)を具体的に示しているのに、東電も国も何もしていない。このまま何もせずに放置するのだろうか。

 青木美希『なぜ日本は原発を止められないのか?』を読むと、日本の原発政策の現状が良く分かる。実はこの本を知ったのは、ネット上で「新聞社で、何が起きているか?」という記事(https://www.alter-magazine.jp/index.php)を読んだからだ。
 この記事も、現在のマスコミ状況を知る上で非常に有益だった。なるほど、そういう状況なのだな…と。

JAL見落としは

 大事な情報が少ないのは、羽田の航空機衝突事故に関しても、肝心要の情報が抜けている。それは、両機内のボイスレコーダーの生データだ。報道では専ら、両機と管制とのやり取りが紹介されているが、実際の機内でどんな会話がなされていたのか、解明される必要がある。海保機が管制の指示を勘違いした可能性は指摘されているが、追突したJAL側に見落としがなかったのか何も検証されていない。ここがまず不思議だ。一般に追突事故ならば、追突された側と追突した側を、両方詳しく調べるのが普通なのに。

 それに、夜間着陸の基本のキは、滑走路に何もないことをしっかり確認することにあり、夜間設定訓練の際、教官が侵入機などをシミュレーター画面に急に出して、被試験者が的確に応対できるかどうか、技量をチェックしさえしている。つまりパイロットたちは何度も夜間訓練を受けており、空港内を走る車が突然出てくるといった場面さえも想定した訓練を受けている。

 しかも衝突した相手は自動車などではなく、全長約26m全幅約27mの中型機である。かつ、飛行機には衝突防止用の白色ビーコンライト(一定間隔で点滅する高輝度のストロボライト)が両翼端と尾部についている。これが見えなかったら、パイロットとは言えないはず。
それなのに、なぜ衝突してしまったのか。JAL機のコックピットには3人の乗員がいた。彼らは、何を見ていたのだろうか。海保機が見えなかったとすれば、計器類しか見ていなかったのか。報道にはJAL側乗員の名前も経歴も出ていない。普通、飛行機事故があれば機長の名前くらいは出てくるものなのに。その辺も今回の事故報道の異常さだ。

 ここらの事情を伝えた情報は、私の知る限りでは週刊誌『女性自身』記事しかない。全国紙には全然載っていない。それはなぜ……。
私は原発にも飛行機にも直接的な利害はない一市民だが、知る権利はある。ネットその他から得た情報を基に、少し思考力を働かせたらこの程度の疑問点はすぐに指摘できる。市民として、マスコミ報道に無自覚的に流されないようにしたい。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 寄稿 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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