MASAYA NODA
記録されないものは記憶に残らないと言われる。そんなことを許してはならないのだ。福島第⼀原発の事故で「帰還困難区域」となり故郷を奪われた浪江町津島の住民たちへのインタビュー取材、土井敏邦監督の執念がスクリーンからあふれ出してくる映像は圧巻だ。
『フクシマは終わったこと、なかったことにされてたまるか!』。土井監督は「映画の中で涙ながらに語る証⾔者たちの声の後ろに、そんな悲痛な叫び声を私は聞いてしまうのである」と語っている。
裁判記録「ふるさとを返せ 津島原発訴訟 原告意⾒陳述集」に記された住⺠たちの⾔葉に衝撃を受けた⼟井監督は、「この声を映像で記録したい」と2021年春から避難先など原告 らの元を訪ね歩き、10 カ⽉にわたるインタビューを敢⾏。総勢 18 人が思いを淡々と、だが力強く語る映像を約3時間の記録として編集し、歴史に残したのだ。
「『津島』は⼈⼝約 1400 ⼈の問題に終わらない。多数派の幸福、安全、快適さのために少数派を犠牲にする在り⽅への、津島住⺠の異議申し⽴てであり抵抗だともいえる。『津島の存在と闘い』は⼩さな⼀地域の問題ではなく、⽇本と世界に通底する普遍的なテーマを私たちに問いかけている」と土井監督は強調する。
そう、故郷を離れ 10 年以上を経た今も帰れない住民が淡々と語る「叫び声」は、観ている私たち自身が当事者意識を持って受け止め津島の人たちと「対話」している気持ちにさせる不思議な力を感じた。3 ⽉ 2 ⽇から Kʼs cinema ほか全国で順次公開。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
この記事へのトラックバック