2024年03月20日

【オピニオン】ステマ規制後も残る疑問 あご足つき取材 記者は決別せよ=志田義寧

 広告であるにもかかわらず、広告であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング(ステマ)」が規制されて4カ月が過ぎた。この間、ステマに関する目立った報道はなかったが、インターネット上ではステマが疑われる投稿も少なくなく、消費者の疑心暗鬼は拭えないままだ。本稿ではステマの問題点を改めて指摘するとともに、ステマと疑われても仕方がないあご足付き取材に苦言を呈したい。
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 消費者庁は2023年10月1日、景品表示法の規制対象にステマを加えた。代表的なステマは、金銭を支払って良い口コミを書いてもらうことだが、過去には報道記事を装ったステマもあった。
 一般的に消費者は広告であれば、ある程度の誇張が含まれていると認識しており、それに目くじらを立てることはない。しかし、ステマは広告であることが隠されているため、消費者は第三者による公平な評価と勘違いして、合理的に商品・サービスを選択できなくなる懸念が生じる。ステマは「サクラ」や「やらせ」と同様、消費者を欺く悪質な行為と言える。

報道は対象外
 ステマの規制対象は口コミサイトやSNS等への投稿だけでなく、テレビや新聞、雑誌等も含まれる。ただし、報道に関しては「正常な商慣習における取材活動」に基づく記事であれば、ステマには当たらないとされている(消費者庁『ステルスマーケティングに関する検討会報告書』)。では、正常な商慣習における取材活動とは何なのか。報告書は「事業者が媒体に対して、通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等」があるケースを正常な商慣行を「超えた」取材活動であると指摘している。これは裏を返せば企業の費用負担が常識の範囲内であれば、ステマには当たらないというわけだ。ただ、これには異を唱えたい。記者は企業から交通費等を含めたいかなる利益供与も受けるべきではない。

自動車やIT
 筆者の経験では、自動車業界やIT業界は交通費等を取材先が持つ、いわゆる「あご足付き」の取材ツアーが多い。過去には電子機器の商品発表会で、その商品をお土産として配っていたケースもあった。
 米ワシントン・ポストのコラムニスト、ジョシュ・ロギン氏は2019年3月、ツイッター(現X)で、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)から交通費や宿泊費、食事代などが先方持ちの取材ツアーの誘いを受けたと暴露した。当時はトランプ大統領がファーウェイ排除に乗り出していた時期で、ファーウェイからすれば米国人ジャーナリストを招待することは藁にもすがる思いだったに違いない。しかし、その招待は正反対の結果をもたらした。
 外国プレスは取材先からの利益供与を厳しく禁じている。筆者が所属していたロイターも行動規範で「自分で費用を支払い、自分で旅行の手配もするのが基本姿勢だ」「ニュースソースから提供されるいかなる支払い、贈答品、サービス、利益(現金か物品かを問わず)を受け取ってはいけない」と定めている。ワシントン・ポストにも同様の規定があり、ロギン氏はツイッター上で直ちに断りの返信を送っている。

信頼回復へ
 多くのジャーナリストは、取材費用が企業持ちでも筆を曲げることはないと言うだろう。しかし、それを読者が知ったらどう思うか。取材費用を出してもらった商品レビューをいったい誰が信用するというのか。問題は筆を曲げるか否かではない。疑念を持たれること自体が問題なのだ。企業ジャーナリズムが信頼を取り戻すためにも、あご足付き取材という悪しき文化と決別する必要がある。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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