福島第一原発の事故からまもなく13年。現在も2万6千人を超える人々が故郷に戻れず避難生活を続けている。そんな人々に対して元々事
故の当事者である東京電力の対応は不誠実極まりなかった。尊重すると誓いを立てた原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)の和解案を4年以上も拒絶し続け、仲介打ちと切りとなった。
さらに2020年ごろから損害賠償を争う法廷で露骨な出し渋りの論理を展開し始める。一企業が弱者に対してこうまで攻撃的になるのはなぜなのか。裏側に迫ったのが本書である。
興味深いのは第2章だ。22年6月17日。東京電力福島第一原発国賠訴訟で最高裁は異例の判決を言い渡した。東京電力の損害賠償責任は認めたうえで、不可思議にも、高裁の事実認定を覆し、「国の責任はなかった」と断じた。
この6・17判決は、どのように書かれたのか。判事は菅野博之、岡村和美、草野耕三、三浦守の4氏。このうち検察出身の三浦氏は「国に責任がある」と反対意見書を出したが、受け入れられなかった。
筆者は残る3判事の経歴を追う。見えてきたのは電力会社、最高裁、国、巨大法律事務所の間に張り巡らされた濃い人脈図だった。裁判長だった菅野博之氏は判決から1か月半後の8月3日に巨大法律事務所の顧問に就いた。過去に東電の代理人を勤めた弁護士が何人もいる事務所だ。さらに岸田文雄首相が原発依存を減らしていくという従来の方針を撤回、原発回帰の方向を明確に打ち出したのは、この直後のことだった。
司法の頂点の体たらくを知れば、背筋が寒くなる読者も多いのではないか。日本の闇の深淵部に切り込んだ筆者にエールを送りたい。(旬報社1500円)
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