2024年03月24日

【オピニオン】図書館の民営化の問題・元JCJ賞選考委員 清田義昭=出版部会

 2020年に廃業した出版ニュース社で五十数年仕事をした。出版界の業界誌で『出版年鑑』哉雑誌『出版ニュース』を刊行してきた。読者対象は学校や図書館も含まれる。わたしが編集しているあいだの方針は「出版の自由は出版流通の自由なくしてありえない」という理念であった。出版・表現をもとにした表現物(著作物)は、読者に届いてはじめて存在理由・価値があると考えるからだ。

 こうした視座で業界ウオッチングをつづけた。出版をめぐる問題は山積していてそれをどう解決するかが日々の仕事であった。近年、出版物販売の低迷が課題になっていることは事実だが、とりわけ図書館に関するものが多かった。図書館の利用率が急に増えたわけではないが、図書館についてメディアが取り上げることが目立つ。
 いうまでもなく図書館は税金でつくられ運用されている。図書館は市民が知る・学ぶ・読む場であり、だれもが身につけることができる社会システムでもある。その図書館が、「にぎわい・人あつめ・新手」をキーワードに紹介されている。それらの多くが、いわゆる民営化されたものである。話題になることは否定しないが、それだけでいいのかと思う。

 新自由主義の流れのなかで多くの業種の民営化がすすんでいる。他方ではその破たんが各所で起こっていることも確かだ。そうしたなかで自治体が図書館を民営化することで経費削減を目的にしているのであろう。
 2016年に片山善博元総務大臣が「教育と並んで重要なのが図書館である。人は生涯に亘って成長を続ける存在」そして「人の自立の過程を、学校教育と並んでサポートする知的拠点が図書館にほかならない」。また、民営化が経費削減が目的であってはならないと発言した。
 当時、図書館界で注目された。図書館は専任・専門・正規でなければならない職種である。それは、民営化で本来の使命やノウハウが自治体に蓄積されなくなってしまい、また、その評価ができなくなることにある。

 最近問題になっているのが図書館における非正規職員の比率が約70%になり、賃金が低く、定着率が悪くなって官製ワーキングプアを生んでいることだ。図書館は本と利用者をつなげる場である。それを仕事とするのが図書館司書である。その司書の賃金が低いというのはどうしたことなのだろう。
 海外での図書館司書の専門職としての地位は高い。日本の場合そうなった歴史的経緯があり、その分析も必要だ。それは、国の図書館政策がおかしいからだ。同時に地方自治体が経費節減のために民営化していることが問題であるのは事実だろう。市民が図書館のあり方について協働して考える時期にきているのではないだろうか。(小手指町在住)
 「マスコミ・文化九条の会所沢」会報197号(3月5日発行)より
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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