2024年03月25日

【焦点】著作者人格権奪う世田谷区に見直し求める要望書第二弾を提出、29日まで回答を=橋詰雅博

 世田谷区史の刊行をめぐり区と対立する執筆予定だった青山学院大学文学部史学科準教授・谷口雄太氏の支援などを目的とした「世田谷区史のあり方ついて考える区民の会」は、区に2月27日に提出した著作権譲渡契約書の見直しを求める要望書に対する区の5日の回答書に「失望した」として3月22日に再び要望書を保坂展人区長に提出した。回答書の「経緯」説明の部分には、執筆者が「委員会」と3カ月にわたってやりとりしたなど看過しえない事実誤認があると指摘している。対話の場を設けてほしいと29日までに回答を求めている。第二弾の要望書の主な内容は次の通り。

区民の会との対話の拒否について
区は、「東京都労働委員会で調査手続きを行っている最中であり、まずは当事者間の対応に注力したい」とし、区民の会との対話を拒みました。
しかし、これは区の認識の誤りに基づく判断であり、対話を拒む理由とはなりません。そもそも都労委に申し立てを行ったユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)と、労働組合ではない区民の会とは別組織です。出版ネッツは、著作権譲渡と著作者人格権の不行使を承諾しないことを口実にして区史編さん委員が切られた不利益取扱い(労組法7条1号)と、区による団体交渉拒否(同条2号)に対し、都労委に救済を申し立てています。一方、区民の会は区に、@区史編さんに係る著作権(著作者人格権の不行使を含む)契約書を見直すこと、A区民や有識者らの声を聞く場を設け、その声を反映させて文化財行政を改善することを要望しています。
二つの団体は別組織であり、要望や要求内容も違います。都労委での調査を隠れ蓑にして、区が区民の会との対話を拒むことは失当と言わざるを得ません。

著作権譲渡と著作者人格権不行使の契約書について
区民の会は契約書の見直しを求めましたが、区の回答書について納得がいきません。
区は、「契約書は四つの区史編さん委員会の正副委員長八人に検討してもらい、委員会で各委員に説明やメールで修正・確認を行った上で著作権譲渡契約書を区と締結することに承諾を得ている」と回答をしています。しかし、区民の会としては、正副委員長の検討や各編さん委員への説明が十分であったか、などについて疑問を持っており、情報開示が必要だと考えています。もとより契約の承諾者が多いことをもって、著作者人格権不行使の正当性を証明することにはなりません。

また、区は「著作権譲渡契約書には編集作業は編さん委員会において行われることを明記しており、区は勝手に改ざんできないようにしている」と書いています。しかし、その一方で区は編さん委員に対しては、原稿を書き換えられない権利を規定する「著作者人格権」を放棄させる契約書を示し、これに承諾しない委員には委嘱を切っています。これは明らかなに矛盾した対応です。区史の編集は専門家による委員会が行うと言うのであれば、行政は介入できないはずです。原稿の内容に問題や疑問があれば、編さん委員会で議論すべきです。その場合も、本人の同意なく勝手に原稿を改ざんするようなことがあってはなりません。

そして、区は原稿の改ざんを防ぐためにも、契約書を見直し、「区は著作者人格権を尊重する」と明記すべきです。
編さん委員の委嘱条件として著作者人格権の不行使という踏み絵を踏ませるのは、区史編さんへの介入にもなりかねません。区民としては、著作者人格権を奪って作られた区史を読みたくはありません。最新の研究成果を取り入れた、分かりすい区史を読みたいものです。

長い年月が経れば行政の担当者も代わり、著作者人格権の不行使を求める契約書を締結して区が人選した編さん委員の原稿が改ざんされる可能性は否定できません。それを防ぐためには、著作権譲渡契約書の見直しが必要だと考えます。

区の契約書が全国の自治体に広がる懸念について
自治体史の執筆者に対し、著作者人格権の不行使を盛り込んだ契約書が、各地の自治体などに広がっていくことを懸念しています。
「セクシー田中さん」の原作者である漫画家の芦原妃名子さんが亡くなったことが今、大きな社会問題となっています。著作者人格権をないがしろにすることは著作者の命を奪うほどの重い問題です。著作者人格権は原稿を勝手に書き換えられない権利であり、著作権法で譲渡ができないと規定されています。

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 焦点 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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