2024年03月29日

【リレー時評】米大統領選 陰謀論が跳梁する現代=藤森研(JCJ代表委員)

 米大統領選が進む。トランプ前大統領が共和党の候補になることは決定的だ。バイデン不人気もあって、トランプが復活した時に世界はどうなってしまうのか、という危惧が現実味を帯びている。
 トランプが支持される理由はさまざまにあろうが、岩盤支持層の一つに陰謀論集団「Qアノン」があるという。関連書や雑誌を読んでみた。
 「Q」は米国の最高機密、「アノン」はアノニマス(匿名の)の意味だ。ネットの匿名掲示板にQが初めて投稿したのは、2017年。民主党のヒラリー・クリントンが逮捕されるという荒唐無稽な内容だった。だが、信奉者は膨らんだ。

 藤原学思は『Qを追う』で、彼らの主張をこうまとめている。
――世界は、米民主党のエリートやハリウッドスターらの「ディープステート」に裏で操られている。彼らは児童虐待者らで、前大統領のトランプこそが、人々を救う救世主だ――
陰謀史観は昔からあるが、近代のそれはフランス革命が嚆矢(こうし)だった、と内田樹は書いている(『日本の反知性主義』)。
――フランス革命で一夜にして財貨を失った特権階級は、亡命先のロンドンで額を寄せ、秘密結社が革命を企んだと推論した。19世紀末、ドリュモンなる人物がこう書いた。「フランス革命後の百年で最も利益を受けたのはユダヤ人だ。彼らがフランス革命を計画実行したに違いない」――
 革命の原因は、統治の経年劣化、市民社会理論の登場などの複合だ。内田も書く通り、ドリュモンの論理は、風が吹いて儲(もう)かった桶屋が気象を操作した、と言うに等しい。
 米連邦議会侵入で逮捕された男性は、トランプが敗けた選挙に不正があったと信じる理由をこう語った。「トランプは多くの集会を持ち、いつも満員だった。バイデンはほとんど集会をせず、来ても支持者はわずかだった」
 だが、バイデン陣営が集会を制限し、人数も絞ったのは、コロナ対策だった。

 米NPOの世論調査ではQアノン流の陰謀論に、5%が「完全に同意」、11%が「おおむね同意」すると答えた。その属性は高卒以下、南部在住者らが比較的多かった。
 「Qアノン」拡大の理由についてはウォッチャーたちの見方が一致する。「トランプや共和党が否定するどころか奨励するような発言をした」「コロナ禍でパソコンに触れる人が増えた」などだ。
 だが、彼らの心象風景についての見方は多様だ。
「リベラルな価値観を内心で嫌悪し、差別表現の排除に辟易(へきえき)していたが、トランプが解き放った」
「彼らは社会から見下されていると感じている人々だ」との見方もある。陰謀論は自我を守る、というわけだ。
 どう対すべきか。陰謀論の土壌になる不公正を減らすことも大事だろう。
 しかし、かつて統一教会信者にも感じたことだが、不確かな人間存在を考える時、そう簡単な解はないのかもしれない。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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