捜査機関による証拠ねつ造でえん罪が作られる。まさか!袴田事件第二次再審の静岡地裁決定、と差し戻し後の東京高裁決定はそれを指摘した。本書は裁判官出身の2名の弁護士と刑事訴訟法の研究者が具体的な事件をあげてえん罪の原因と再審法の改正をアピールする。必読の基本書だ。証拠開示、検察官抗告の禁止、裁判官の思い込みの解明、自白偏重の是正など。編者葛野尋之による、再審申立人への刑の執行停止(特に死刑)の提言は死刑再審の場合切実だ。本人が誰よりも知る無実のまま、命を奪われる地獄は看過できない。
読者に問う。刑事裁判の報道論評で、裁判官の過ち批判の筆にためらいはないか。
大川原化工機という事件(本書96ページ)では、無実を訴え続けた3人の被告が300日以上自由を奪われた。一人は癌を患い、獄中で他界した。検察の起訴取り消しでえん罪は明白となった。人質司法の、これはむごい一例だ。
誰の責任か。警察、検察の捜査の過ちはメデイアで論評される。しかし勾留決定を繰り返し、医療のために有効な保釈申請を複数回却下したのは裁判官である。そこに踏み込み令状裁判官に取材を試みたジャーナリストは管見の限りいない。袴田事件の一審以来の確定判決の裁判官たち、再審請求を却下してきた裁判官たちに「どうお考えか。」と真摯に問いかけたジャーナリストはおられるか。
判例時報2566号袴田事件特集号の巻頭に木谷明元裁判官の論考が掲載された。袴田再審の各審級の裁判長や、著名刑事裁判官の実名をあげて、裁判官の内面にまで筆を及ぼしている木谷明元裁判官の文章は、おそらくはご自身への内省もあるのではないか。胸をうつ文章である。
歳月が作り上げた袴田さんの苦渋の表情と突き抜けるような姉上の笑顔が語るお二人の人生の真実に思いを馳せよう。私たちの姿勢も体当たりのものにならざるを得ない。(岩波ブックレット960円)
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