今年に入って2件目の日本人女性を海外で売春させる犯罪グループが警視庁保安部に摘発された。売春あっせん容疑で5月9日に逮捕された3人は、約3年間で200人〜300人の女性を米国、オーストラリア、カナダなどの売春組織にあっせんし紹介料などとして総額2億円を得ていた。4月に逮捕された4人は2021年6月から3年間で同じく200人から300人の女性を米国、オーストラリア、カナダにあっせんし2億円売り上げていた。どちらも立ち上げた求人サイトを通じて女性を募っていた。
警視庁が摘発に動いたきっかけは、米税関・国境取締局(CBP)や国土安全保障省などから昨春ごろ情報を提供されたからだ。日本人女性の違法な出稼ぎ売春が目に余るためCBPなどが対応したとみられる。今では「観光目的で来た」という日本人女性が一人で米国に入国しようとした場合、売春目的ではないかと疑われ、警察官から「なぜ一人で来たのか」「職業は何なのか」など質問攻めにあったうえにスマホの中身も徹底的に調べられる。何時間も拘束されて、疑いが晴れないときは入国を認められず、強制帰国させられるケースが少なくない。米当局ほど審査は厳しくないが、オーストラリアやカナダでも同じような対策をとっている。売春目的の渡航だと判断されたら米国では、日本の入管法にあたる移民国籍法に基づき以後10年間入国できなくなる。また入国後に摘発されたら不法就労となり国外退去となる。
ここにきて日本女性の海外への出稼ぎ売春が増えてきたのはなぜなのか。5月11日に日本ジャーナリスト会議(JCJ)のオンライン講演に出演した『出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日出版新書)の著者・松岡かすみ氏は「海外出稼ぎ売春は10年ほど前から少しずつ見られた」としたうえで、コロナ禍を経て増加した理由を3つ挙げた。
まず長引く不況と急速な円安による物価高などの影響で、日本の風俗業界では思うように稼げなくなった。海外の風俗店などの料金の方が日本と比べて何倍も高く、女性の取り分も多い。次に性の売買がカジュアル化し、貞操観念が薄くなり積極的に売春の世界に足を踏み入れる人が増えている。3つ目はSNSを始めデジタルテクノロジーの発展により個人が仕事≠直接受けられる環境が整ってきた。
今後どうなるのかについて松岡氏は「この傾向は強まるだろう」と予測。出稼ぎ売春の加速は日本人のビザ発給の厳格化、現地での深刻な被害が表面化する危険性があると指摘した。
「失われた30年」における日本経済の停滞のひずみが出稼ぎ売春に拍車をかけている。
2024年05月20日
この記事へのトラックバック