「赴任するどころか、関連の取材や報道に携わった経験もほとんどない。沖縄に関わることを意図的に避け続けてきた」
プロローグは、そう述懐する在京記者のファミリーストーリー。「観光地」以外の沖縄に向き合うことを無意識で避けている本土の人にも、自分ごととして引き寄せていく構成だ 。
執筆したのは、沖縄の施政権返還50年目に法政大沖縄文化研究所が開いたシンポジウムに登壇した5人のジャーナリスト。シンポジウムでの発言を掘り下げて書き下ろしている。
なぜ、「本土復帰」という表現を使わないのか。なぜ、復帰50周年記念式典での天皇の言 葉に「引っかかるもの」を感じるのか。 身近なエピソードを交えながら解きほぐす。
そして、沖縄戦や日本復帰を生き抜いた先人たちの言葉が詰まっている。その一つが、2 007年の国会での安倍晋三首相と大田昌秀元知事の質疑だ。
「安倍総理にとって沖縄とは何ですか」
「沖縄の未来は大変素晴らしいものがあるのではないか」
「私は大変暗いと認識しております」
安倍政権は当時、辺野古新基地建設に向けた環境調査に自衛隊掃海母艦を派遣した。そ うしながら「未来は素晴らしい」と言い放った首相に、大田氏は「温度差なんていうもので はなく、人間的情感の問題だ」と語ったという。
ジャーナリストが継承の当事者としての責務を負うことになった時代を示す一冊だ。(高文研1800円)
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