トークイベント「ドキュメンタリーが面白い!」でテレビ番組から映画制作の経緯や意義を語る、北海道民放3局の担当各氏=5月26日、札幌
JCJ北海道支部は5月26日、トークイベント「ドキュメンタリーが面白い!/テレビ局はなぜ映画を作るのか/道内民放3局の制作者が語る」を札幌で開催。登壇した山ア裕侍さん(HBC報道部デスク・「ヤジと民主主義 劇場拡大版」監督)、吉岡史幸さん(UHB取締役・「新根室プロレス物語」プロデューサー)、沼田博光さん(HTB報道部デスク・「奇跡の子 夢野に舞う」監督)の3氏が、昨年から今年にかけ映画化されたドキュメンタリー番組の取材や制作意図、現場の課題などを本音で語り、参加者約90人の共感を呼んだ。
「首相批判」排除
おかしくないか
山アさんは、2019年、札幌で街頭演説した安倍晋首相(当時)にヤジを飛ばした市民が、警察官に強制排除された問題に迫った。
「地声で『安倍やめろ』と10数秒言っただけで排除。『プラカードが風にあおられて危ない』と移動させられた市民もいたが、安倍首相応援のプラカードは排除されなかった。これはおかしい」と感じたことが、番組とその後の映画化を含めての出発点となった。
「TBSドキュメンタリー映画祭出品が上映の機運を呼び、『劇場拡大版』のKADOKAWA配給に」と話した。
「思い実現を」
プロデュース
吉岡さんは「根室の人たちの思いを実現させたかった」と、初代リーダーを病で失った根室のアマチュアプロレス団体の「奮闘ドラマ」をプロデュースした。「映画の起点は長く映像を撮り、編集を続けたカメラマンと編集マン。それが番組につながった」と振り返った。当初検討された俳優を使っての映画化は、紆余曲折の末、ドキュメンタリーになったという。
農家の声今こそ
7年追い続けた
沼田さんは空知の長沼町で「タンチョウを呼び寄せマチおこしをしよう」とする14人の農家を、自力で7年間追った。農家は1981年の「五六水害」被害者。その治水対策だった千歳川放水路計画は、自然保護論争の末に中止された。
「14人は『自然保護団体は大嫌い』だった長沼の普通のお父さん」。「僕は当時、農家の人たちの声を取材していなかった。それを今、映画にしたいと思った」と、一人で制作に手を挙げた理由を語った。
映画化に意義も
現状には危機感
映画化の意義を、山アさんは「採算ラインはともかく社のブランド力は上がり、お金に代えられない価値がある」。吉岡さんも「テレビは視聴率競争が厳しいが、映画で良質なものを作るという原点に帰れた」と評価。沼田さんは「お客さんの感想を直接聞ける映画は製作者を鍛える。この経験を後輩に伝えたい」と意気込みを語った。
一方、ドキュメンタリーの現状には「放送枠は毎週あるが、作りたいとアピールする記者が少なくなった。記者がデジタル情報の用意のために忙しい」(山アさん)。「合間仕事だったデジタル作業がいまや本業を圧迫し、記者もデスクも忙しい。長い視点で取材する仕事ができなくなっている」(沼田さん)。「国の石炭政策などのひずみが起きた北海道では、かつて良いドキュメンタリーが多く作られたが、近年は『夕方ワイド戦争』で、情報番組にニュースも組み込まれ、制作が難しくなってきた」(吉岡さん)と、3氏は揃って危機感を口にした。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
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