相次ぐ不祥事で県民の信頼揺らぐ鹿児島県警
県内外が注目する鹿児島県警の不祥事隠ぺい事件。新聞報道だけでは全容がわかりづらい。関係者の話を総合すると、この事件は地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで4月に逮捕され起訴された巡査長の藤井光樹被告(49 懲戒免職)と北九州の福岡市のデジタルニュースサイト「HUNTER」との関係が原点のようだ。藤井被告から受け取った県警のさまざまな不祥事情報を「HUNTER」は報じていた。組織維持のため目障りと県警は警務部長をトップとした50人からなるプロジェクトチームが調査にあたり、「HUNTER」のネタ元が藤井被告であることを突き止めた。「HUNTER」と藤井被告との間で金銭的なやり取りがあったかは分からない。
県警は4月8日に「HUNTER」編集部を家宅捜索。パソコンに残っていたPDFファイルを見て驚愕した。未発表の盗撮事件(後日発表)やストーカー事件などの概要が記録されていた。匿名だったので告発者が誰なのか不明だったが、送信元は北海道札幌市に住む月刊誌「北方ジャーナル」記者の小笠原淳氏(55)。
小笠原氏は「北方ジャーナル」7月号でその経緯を自ら書いている。概要はこうだ。<闇をあばいてください>という文言で始まる匿名の文書が4月3日に届く。消印は「鹿児島中央」「3・28」。鹿児島市内から6日間を経て札幌市在住の彼の元に。告発文書を「なぜ鹿児島の人がこれを札幌に」と首を傾げた。情報を共有する考えで日ごろから付き合いのあった「HUNTER」の中願寺純則編集長に文面などをデータ化したPDFをメール送信した。3日の午後3時過ぎだった。
県警はこのPDFを8日の家宅捜査で発見・押収したわけだ。割り出した告発者は県警前生活安全部長の本田尚志氏(60)。本田氏は3月に定年退職し、在職時の階級は警視正。本田氏は5月31日に国家公務員法(守秘義務)違反で逮捕された。ノンキャリアだったが、幹部だったので国家公務員法が適用される。
小笠原氏は6月4日に鹿児島県警組織犯罪対策課の捜査員と名乗る男性から電話を受け取る。「うちの元生活安全部長が逮捕された件で、証拠品が小笠原さんに送付されていたことがわかりまして‥‥」。「重要な証拠品ということで、返還していただきたいと思いまして」
――返還?どういうことですか。
「簡単に言いますと、証拠品として押収させていただきたいと」
――押収?令状か何か出てるんですか。
「今のところは、ないです」
――ああ、任意ってことですね。
「はい、お願いベースになります」
――私の職業とか知っていますよね。
「そうですね、はい」
――誰からどういう情報を貰ったとか、普通、外部には言わない仕事なんですけど。
「‥‥ああ」
――それやっちゃたら、この仕事できなくなるんで。
「ああ、なるほどですね」
――出さないと強制捜査(家宅捜索など)になるんですか。
「なんとも言えないところです。ただまあ、重要な証拠品であると判断しておるところで」
――普段どういう報道対応なさってるかわからないんですけど、報道関係者はこういうの出さないですよ。
「そこをですね、どうにかお願いできないかなあと‥‥」
県警からはこの後複数回の打診があったが、小笠原氏は提出を拒否した。さらに任意聴取の要請に対しては「弁護士同席」「録音」「撮影」などの許可の条件を示したうえで「何を問われても答えない」と表明した。その結果、県警側は要請を断念した。
藤井容疑者は一審で罪を認め結審、「野川明輝県警本部長(警察庁のキャリア官僚)の指示で事件はもみ消された」と告発した本田容疑者は、拘置所から保釈されこれから裁判が始まる。本田容疑者が県警不祥事の公益通報だとして無罪を訴えるのかどうかが注目される。
この記事へのトラックバック