2020年の菅政権による学術会議会員候補者の任命拒否を契機に政府が進めている同会議法人化の議論に対し、歴代の学術会議会長6氏が6月10日、岸田首相に「政府主導の見直しを改めることを要望する」とした声明を発表した。
前会長の梶田隆章・東京大卓越教授は、日本記者クラブでの会見で「日本の学術の終わりの始まりとなることを強く懸念する。極めて危うい」と述べた。
声明には吉川弘之・東大名誉教授(工学)、黒川清・東大名誉教授、東海大特別栄誉教授、広渡清吾・東大名誉教授(法学)、大西隆・東大名誉教授(工学)、山際寿一・京大名誉教授(人類学)、梶田隆章・東大特別栄誉教授(物理学・ノーベル賞受賞者)の1997年の17期以降、25期までの各会長が署名した。
声明は、政府が進める「法人化」方針について、
20年に発覚した会員6人の任命拒否問題を「正当化するためと疑われる」と批判。会員選びに外部有識者が意見を述べる「選考助言委員会」設置案についても、「学術会議の独立性と自主性に手をつけるもの」だと懸念を表明。学術会議のあり方は、社会や与野党を超えて国会で議論すべきだとの考えを示した。
理由頑なに拒否
菅政権が、推薦された新会員候補者105人のうち、芦名定道・京大教授、宇野重規・東大教授、岡田正則・早大教授、小沢隆一・東京慈恵医大教授、加藤陽子・東大教授、松宮孝明・立命館大教授の6人の任命を拒否した問題は、同会議のほか90を超す学会団体が抗議声明を出すなど、広く反対運動が起きた。
だが、政府は「任命拒否」の理由説明を拒み、その一方で役員任命や、委員会、分科会などの組織改革や「見直し」が必要だとして問題を学術会議の組織問題にすり替え、強引に改革論議を進め、「総合科学技術・イノベーション会議」の有識者懇談会から「学術会議の在り方に関する政策討議とりまとめ」を得て、内閣府の「日本学術会議の在り方についての方針」を発表。「法人化」の方針を決定した。
政府決定に懸念
一方、学術会議も今年4月「政府決定の『学術会議法人化に向けて』に対する懸念」を決議として発表。国の在り方や政府の政策への「基盤勧告機能」など「より良い役割」果たすための要件として@十分な財政措置A組織・制度の政府からの自律性、独立性の担保B海外の多くのアカデミーも採用する会員自身が次期候補者挙げ、選考委員会が推薦する「コ・オプテーション方式」会員選出、会員による会長選出を改めて声明した。
歴代会長の声明はこれを受けたもので、「世界が直面する人類社会の自然的、共生条件の困難さは一層大きく学術の役割を要請している。学術会議の在り方について政府主導の見直しを改め、学術会議の独立性と自主性を尊重し擁護することを要望する」としている。
提訴し真相解明
一方、任命を拒否された6人の教授は今年2月、国を訴え「拒否理由」関係文書開示などを求めて立ち上がった。「学術会議は憲法の『学問の自由』に沿い作られた。任命拒否の真相を明らかに」と訴えている。既に6人の氏名と肩書、「R2・6・12」の文字や大きなバツ印が書かれた公文書が明らかになった。
学術会議が発足当初から何度も「科学者は軍事研究に従事すべきでない」と決議していることや、6人が安倍政権の軍事化推進姿勢などに何らかの形で異議を申し立てたことなどが問題にされ、任命拒否されたと言われている。
頑なな「説明拒否」で追い詰められた政府が「学術会議改組」で「対抗」しているのも明らかだ。かつて戦争前夜の日本で、研究機関や大学で政府の見解に沿わない研究者が次々とパージされた。主体的な学問研究は政策推進の邪魔とされた。「学問の自由」への攻撃は「思想、信条、の自由」への攻撃に直結する。「ものを言う自由」「研究の自由」をどう守るのか、重要な闘いが始まっている。
2024年07月19日
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