本書は、「あとがき」で述べているように、著者が網膜剥離と言う視覚障害の危機をのりこえて、渾身の思いをこめてまとめた一書である。
「財政と民主主義」というタイトルであるが、狭い意味の財政問題の書にとどまらず、日本の経済と民主主義のありようを根源から問い直し、人間らしく生きられる社会を構想したスケールの大きな新書である。
序章の「経済危機と民主主義の危機」と第1章の「『根源的危機の時代』を迎えて」では、新自由主義の浸透による格差と貧困、環境破壊などについての、著者の時代認識が示されている。
第2章の「機能不全に陥る日本の財政」では、コロナ・パンデミックが日本財政の矛盾を白日のものにしたことが分析され、続く第3章「人間主体の経済システムヘ」ではスウェーデンの「参加型社会」と対置することによって、岸田政権の「人間不在の『新しい資本主義』論」を厳しく批判する。
具体的な財政分析という意味では、第4章「人間の未来に向けた税・社会保障の転換」は説得力がある。日本財政の歪み、矛盾、改革の方向が描き出されている。財政民主主義のあるべき方向として、中央政府、地方政府、社会保障基金政府からなる「三つの政府体系」に再編成することが必要だと主張する。
著者は最後に「本書では、共同体意識に裏打ちされた社会の構成員が、自分たちの運命を自分たちで決定できる共同意思決定空間を下から上へと積み上げて、代表民主主義をも活性化させる途を模索してきた」(243n)と述べている。この文言が評者には重く響いて残った。(岩波新書1000円)
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