2024年08月11日

【おすすめ本】東海林 智『ルポ 低賃金』─労働の現場を歩き、生活に苦しむ実態を炙りだす=北 健一(ジャーナリスト)

 特殊詐欺事件で「受け子」(被害者宅に出向いてキャッシュカードや現金を受け取る役)をしていた21歳の女性が逮捕された。
 新聞社のデスクだった著者は、違和感を抱く。 派遣労働者だった若い女性がなぜ? ここから始まる取材が、低賃金の現場を徹底して踏査した本書の第1章「特殊詐欺の冬の花」に結実した。
 取材はシェアハウス、アマゾン配達、非正規公務員、農家にも及ぶ。

 「一つ歯車が狂うと、全てが回らなくなる」「普通に働いて普通に暮らすことがなんでこんなに大変なのか」
 普通の暮らしをつかめずに苦しむ当事者たちの言葉が、雇用社会の課題を炙り出す。
 マスコミやSNSには「為政者目線」「経営者目線」からの評論があふれているが、著者はその対極に立つ。いつも現場を歩き、時に泣きながら耳を澄ませるからこそ、ここまで深く細やかな話が聴けるのだろう。
 深刻な事実を描きながら読後、温かな気持ちになれるのは、当事者と著者が共感で結ばれているゆえだろうか。非正規春闘をはじめ、根源にある低賃金を打破するために動く人々も活写し、行間から光が差すようだ。

 著者は、日経連が1995年、雇用ポートフォリオを打ち出した「新時代の『日本的経営』」を「賃金が上がらない国」になった元凶と見定め、反撃の狼煙をあげるという(『週刊東洋経済』著者インタビュー)。

 著者は「最後の労働記者」と呼ばれる。尊称とわかりつつ、「最後にしてはいけない」と思う。弱き者に寄り添い、働くものが声をあげることを励まし、希望に続く道を探す仕事は、まだまだ必要なのだから。(地平社1800円)
              
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posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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