2024年08月16日
【メディアウオッチ】隠蔽された米兵暴行事件 スクープの裏側は=古川 英一
6月25日、1つのニュースが沖縄中を駆け巡った。昨年12月に米兵が16歳未満の少女を連れ去り、性的暴行をしたとして今年3月に起訴されていたのだ。しかも沖縄県警はこの事件を一切発表せず、政府・外務省、防衛省も、事実を把握しながら米軍関連事件は沖縄県に報告する取り決めを無視し、県に報告しなかった。
その事実を地元民放局・琉球朝日放送(QAB)が昼前のローカルニュースで最初に暴いた=写真=。
地元の新聞、放送各局も事実確認を急ぎ、相次いでこれを報じた。このスクープで、初めて事件を知った県は政府などへの対応に追われた。
ニュースは東京へと広がり、当初、外務省や防衛省は「被害者の『プライバシー保護』のための対応だった」と弁解を繰り返した。しかし「なぜ沖縄県に伝えなかったのか」。沖縄県民の政府や在日米軍への不信感や怒りの声は高まった。しかもその後、米兵による暴行事件がこれまでに合わせて5件にのぼることが明らかになった。
事件発生からスクープまでの間には、岸田首相の訪米や沖縄県議選などがあった。政治的影響を懸念した政府による隠ぺいの疑いは一層強まり、政府は「今後このようなことがないよう沖縄県への情報提供を行う」と表明するに至った。
このスクープはどうやって生まれたのか。琉球朝日放送によると、警察・司法担当の記者が週明けの6月24日、裁判所で裁判の公判日程を確認したところ、期日簿に前週の金曜日には記載されていなかった米兵の性暴行事件の初公判の日付が記載されていた。記者はすぐ、地検に確認に走り、翌25日午前中に地検から起訴状を入手。起訴状をもとに原稿を書き、プライバシーに配慮しどこまで出すのかをデスクと慎重にやりとりしながら、最終的に昼前のニュースで報じた。
他の民放やNHK、新聞社のネットニュースも昼ニュースの時間帯にはこの事件に触れておらず、琉球朝日放送の単独スクープだった。
政府が隠そうとする事実・不都合な真実を明らかにしていくことは、権力をチェックしていくジャーナリズムの使命だ。
今回の琉球朝日放送のスクープは、裁判期日、公判日程を確認するという警察・司法記者の日常的で地道な取材活動の結果でもある。琉球朝日放送で当日昼デスクを担当した金城正洋さんは「前日の23日は沖縄慰霊の日で、沖縄のマスコミ人は炎天下でへとへとでした。それでもQABの記者が持ち場のルーティーンをこなした結果です。慰霊の日に岸田総理が来た翌日ですから、那覇地検、那覇地裁も政府も、どこを向いているのでしょうか」と憤った。
事件の初公判は7月12日に開かれた。3月に起訴された事件が、6月24日になるまで期日簿に記載されないのも普通は考えにくい。裁判所・司法の対応についても追及・検証が必要ではないだろうか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
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