2024年08月28日

【月刊マスコミ評・新聞】「大本営発表」報道を再来させるな=六光寺 弦

 意図的な虚偽ではなくても、伝え方次第で物事の印象は変わる。新聞が公権力の作為を見抜く力を失い、発表通りに報じるだけでは、かつての「大本営発表」報道を再来させかねない。自衛隊の不祥事のことだ。

 防衛省は7月12日、大量処分を発表した。翌13日付の東京発行の新聞各紙はおおむね1面トップの扱い。主見出しは「防衛省218人処分」(朝日、毎日、東京)、「防衛省 幹部ら218人処分」(読売)など、そろって処分の規模を強調した。しかし、「218人」は本当に最大のニュースバリューなのか。
 対象の不祥事は@特定秘密の違法な取り扱いA潜水手当の不正受給B隊内施設での不正飲食C内局幹部のパワハラ−の4種。@は組織運営上の構造的な要因があり、属人的な不正、不適切行為である。他の3種と質が異なる。処分者も113人と過半を占める
 特定秘密保護法は安倍晋三政権下の2013年12月、世論の賛否が二分される中で採決が強行され成立した。自衛隊が米軍と一体で行動するために不可欠とされた。ところが、当の自衛隊でルールを守れない運用が続いていることが露呈した。法の廃止を含めた抜本的な議論が社会に必要であり、それがこのニュースの本質のはずだ。

 軍拡を進める岸田文雄政権も防衛省も当然、そんな事態は防ぎたい。特定秘密から何とか目をそらせたいと考えた末の、異質な他の不祥事との抱き合わせの発表ではなかったか。
 例えば隊内施設での不正飲食は、ネットで検索しただけでも、過去の事例の報道がいくつも見つかる。すべて現地部隊の発表だ。なぜ今回だけ防衛省の発表なのか。
 潜水手当の不正受給では、警務隊が4人を逮捕しながら大臣には報告していなかったことが、大量処分の発表後に発覚。8月になって防衛次官らを追加で処分した。抱き合わせで発表する事例を探すのに大慌てだったとすれば、このお粗末ぶりもよく分かる。

 新聞各紙では、特定秘密保護法に焦点を当てた長文の記事もあった。だが、ネットのニュースアプリやSNSでは読めない。新聞を読まない層には「自衛隊はたるんでいる」との、ぼんやりとした受け止めにしかならなかったおそれがある。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号

posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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