「パッと見には緑のスギ林に覆われている。が、何か変だ。スギ木立のその後ろに茶色の地肌が透けて見える。斜面の一部も崩れていた」。本書は、宮崎県中部の盗伐現場の生々しい現場ルポから始まる。
先進国や発展途上国など地球規模で拡大の一途をたどる「違法伐採」。森林破壊が進む「森林王国」日本でも、違法伐採の輸入材が多く流入している。その一方、宮崎県はじめ全国各地で、重機を使った大規模で組織的な盗伐が頻発。東京五輪のメイン会場となった、新国立競技場の建設に使われた合板型枠も、違法伐採された木で作られた可能性が、国際的なNGO団体などから警告されたほどだ。各地で被害に逢った林業者が被害届を出しても、警察が受理しないなど、今や日本は、本書が指摘するように、無法がまかり通る「世界に冠たる盗伐天国」なのである。
国会でも田村貴昭議員(日本共産党)などが、繰り返し行政の取り組み強化を追求し、「違法木材の流通規制」を盛り込んだ法案を提出した。しかし、警察がなかなか腰を上げす、政府は、「絶望的な感度の低さ」に終始している。
本書は、長年にわたり全国各地の森林や林業現場を取材、『絶望の林業』を著わした筆者が、「森林行政の刷新と林業健全化の最後の機会」との熱い思いを込めた、1冊である。森林環境税の強行で国民に新たな負担を強いながら、「やってる感満載」の自公政権は、森林を荒れ放題なままに放置する。「山河壊れて国はなし」。筆者が警告する、日本の森林の危機的な状況から脱するための原動力は、「食にも森にも、ほぼ無関心だった」多くの国民の覚醒と行動である。(新泉社2000円)
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