日銀に対する信頼が揺らいでいる。日経平均株価は8月5日にブラックマンデーを超える過去最大の下げ幅を記録したが、その原因のひとつに日銀のコミュニケーションを問題視する声があがっている。確かに7月の利上げは、市場の意表をついた格好となり、市場との対話に課題を残した。このところの情報漏洩(リーク)疑惑も含めて、日銀はもう少し丁寧に説明すべきだ。
予想されず
日銀は7月の金融政策決定会合で15ベーシスポイントの利上げを決めた。7月会合での利上げは直前まで予想されていなかったためサプライズとなり、5」日の暴落の遠因になった可能性は否定できない。植田和男総裁が追加利上げに前のめりな姿勢を見せたことも、市場の動揺を誘った。円キャリー取引を積み上げていた海外勢にとって植田総裁のタカ派姿勢は想定外で、これがポジションの解消につながり、「植田ショック」を招いたとの見方がある。
日銀は会見や講演、経済・物価情勢をめぐる判断など考え方を伝える手段を数多く持っている。ただ、7月の利上げは事前の情報発信からは読み取れなかった。6月会合後は執行部の講演がなく、国会も閉会していたため、金融政策の考え方を伝える機会は限られていた。そうした中での利上げ決定。筆者は金融政策の正常化は必要との立場だが、事前の説明やタイミングに関して、もう少し考える余地があったのではないかと感じている。日銀は市場との対話に失敗したと判断していい。
リーク否定
日銀が市場との対話に失敗すれば、その影響は報道にも及ぶ。今回も事前の情報発信から利上げが読み取れなかった中で、NHKと時事通信、日本経済新聞が相次いで追加利上げの検討について報道したため、リークが疑われた。植田総裁は会見で「ルールの中で情報管理をきちんとしている。時々出る報道は観測報道であると理解している」とリークを否定したが、X(旧ツイッター)では説明を信じる声はほとんどない。
では、日銀は本当にリークをしているのか。筆者は2020年まで報道機関で日銀を担当していたが、筆者の経験から言えば、一般の人が想像するようなリークはないと断言できる。一般の人が想像するリークは、政策を事前に市場に織り込ませるために陰でコソコソと教えるというものだろうが、前述したように、日銀は考え方を伝える手段を数多く持っている。リスクを冒してまで、報道機関を使って織り込ませる必要はまったくない。
日銀担当記者は日頃から、景気の現状や先行きに対する見方、リスク等について、かなり細かく取材をしている。日銀は会見や『経済・物価情勢の展望』(展望レポート)で蓋然性の高いシナリオやリスクを公表しており、記者はそのシナリオに変化はないか取材を通じて確認し、その積み上げが報道につながっている。ただ、今回のように日銀が市場との対話に失敗すれば、事前報道が癒着とみなされ、報道に対する信頼も揺らぎかねない。
軌道修正へ
日銀は4月の展望レポートで「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」との見解を示していた。つまり利上げ自体は既定路線だった。問題は事前のコミュニケーションとタイミングだ。弱めの経済指標が目立っていたため、市場では「経済・物価の見通しが実現していくとすれば」の前提条件は成立していないと判断する参加者も少なくなかった。
内田真一副総裁は8月7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と明言、軌道修正を余儀なくされた。日銀には、より丁寧な対話を求めたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
2024年09月15日
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