2024年09月19日
【79年目原爆忌】長崎 祈念式典に政治的圧力=関口達夫(元長崎放送記者)
8月9日の長崎市平和祈念式典は、原爆死没者を追悼する厳粛な儀式である。その式典に今年、欧米主要国が政治的圧力をかけ、被爆者らの反発を招く異例の事態となった。
長崎市がガザへの攻撃を続けるイスラエルを式典に招待しなかったことに日本を除くG7のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダとEU(欧州連合)が納得せず、駐日大使を式典に出席させなかったのだ。
ガザでは子どもや老人など約4万人が殺害されており、世界各地でイスラエルに対する抗議行動が続いている。この状況を踏まえ長崎市は、式典に対する抗議行動など不測の事態が懸念されるとしてロシア、ベラルーシに加え、イスラエルを招待しなかった。その一方でパレスチナは招待した。
欧米の主要国はこれに対して、長崎市に書簡を送り、「イスラエルのガザ攻撃は自衛権に基づくもの」で招待しないとロシア、ベラルーシと同列に扱うことになり、「誤解を招く」と牽制。式典当日には駐日大使を欠席させ、代わりに格下の領事などを出席させた。
鈴木史朗市長=写真=は、「イスラエルを招待しなかったのは政治的な理由ではない。式典を平穏に実施するためだ」と強調した。
長崎市の対応について被爆者団体代表田中重光さんは、「イスラエルのガザ攻撃は、自衛権の範囲を超え、虐殺だ。招待しなかったのは正しい判断」と評価した。別の被爆者団体代表川野浩一さんは、「アメリカなどが、原爆犠牲者を弔うという式典に政治的圧力をかけたのは許せない」と憤った。
広島市は、8月6日の平和記念式典にロシアとベラルーシ、パレスチナを招待しなかった一方、イスラエルは招待しており、長崎市と対応が分かれた。
結果だけ見ると長崎市は、欧米主要国の圧力に屈しなかったように写る。しかし、鈴木市長は、元国交省官僚で「平和宣言」では日本政府やアメリカに忖度した形跡がある。
長崎の「平和宣言」は、学識経験者や被爆者団体代表などで作る平和宣言起草委員会の意見をもとに作成される。
当初の宣言案では「核保有国ロシアと核保有疑惑国イスラエルによる大きな戦闘が進行している」と書かれていたが、最終の平和宣言では「中東での武力紛争」と変更された。
これについて起草委員会では「人間の痛みを知る被爆地は、イスラエルによる人権侵害を看過できない」として、イスラエル削除に批判的な意見が出された。
鈴木市長が、イスラエルを招待しなかったのはこうした市民の意見を無視できなかったためではないか。
だとすれば市民意識と発言が市長の判断に影響を与え、欧米主要国の圧力を跳ね返したことになる。
今回の問題は、国際政治と国内政治の影響を受ける被爆地の平和行政を市民が監視し、是正させる重要性を示したと感じている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
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