枯葉剤問題はベトナムに限らない。日本にこそ隠された汚染がある。本書の主題は、そこに置かれている。見事なのは膨大な文献と新聞情報を掘り起こして実証している 点だ。
動機は1968年の国会質問、社会党の楢崎弥之助による「枯葉剤が日本で作られ、ベトナム戦争に使われている」という指摘にあった。
枯葉剤の2,4,5-T(ダイオキシン混入)を生産していた三井東圧大牟田は「輸出先はニュージーランドとオーストラリアで、ベトナムには出していない」と抗弁した。 調査すると労働者への人体実験の話さえも出る。
ベトナムでの枯葉作戦は、ダウ・ケミカルやモンサントなど米・化学企業の増産で支えられていた。だが現地からは、もっと送れと要求される。米国は、調達を三井東圧ほか、独ベーリンガーなど海外企業に依存する。
しかし発覚すれば「戦争加担だ」との世論が当事国で起きかねない。そこで迂回してベトナムに届く「ころがし」が行われた。ニュージーランドにあるダウ・ケミカルの子会社は、アフリカやメキシコ、フィリピンに転送、そこからベトナムの戦場へと届けられた。日本は、この「ころがし」に加わり、秘かに枯葉作戦に参加していたのだ。ナパーム弾輸出もベトナム特需の一つだった。いま政権が進める武器輸出の先がけである。
問題はそれに留まらない。日本の国有林でも使われていた2,4,5-T 剤が林野庁の指示で現場にずさんな形で埋められたのである。それが50年余の歳月を経た今日、漏れ出して水源を汚染し始めている。無害化の手も打たれていない。本書は日本の政治の危うさを抉り出すものとなっている。(飛鳥出版2000円)
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