2024年10月03日

【焦点】究極の原発延命策を狙う 電気料金に建設費 衰退産業のコストを転嫁 龍谷大学教授・大島堅一氏が指摘=橋詰雅博

 経済産業省は、2024年度中に策定する第7次エネルギー基本計画(エネ基)に原発新増設の建設費などを電気料金に上乗せする新たな原発支援制度を盛り込む方針だ。これまで利用者が支払っていた電気料金は基本料金+使用量に応じた電気量料金+再生可能エネルギー発電普及のための賦課金の3階建て。これに原発建設費、維持費、廃炉積立金などを含む原発料金が加わると4階建てに。まだ稼働していないのに市民は料金を支払わされる。背後に何が――。
 エネルギー安定供給とCO2排出抑制を口実に原発を最大限利用に方針を転換した岸田文雄政権は、30年度の発電量に占める原発比率の目標を20〜22%とした。実現には27基ほどの稼働が必要だ。現在動いているのは12基で、全発電量の5・5%に過ぎない。目標クリアには再稼働だけでは足りず、原発新増設は不可欠である。

米国で13基閉鎖

 しかし電力会社は新増設に踏み切れない理由がある。高騰する建設資材や人件費、膨れ上がる事故対策費などで原発コストが爆上がり≠オているのだ。米国投資コンサルタント会社ラザードの23年調査では、原発コストの平均値は、陸上風力や太陽光の再生エネルギー発電の平均の3倍以上。そのうえ建設資材や人手不足で建設期間は大幅に延長が欧米で常態化している。米国では11年以降、13基は「収支が赤字」という理由で閉鎖された。フランスの新型原発は12年遅れで9月4日に稼働。その建設費は当初予定の4倍の132億ユーロ(2兆1000億円)に激増した。日本の原発建設費用も1基あたり1兆から2兆円。このため「原発事業に未来はない」と川崎重工業や住友電気工業など20社は原子力事業から撤退した。
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 国際環境NGO「FoE Japan」が8月19日に開いた緊急オンラインセミナーに出演した原発問題に詳しい龍谷大学政策学部の大島堅一教授=写真=は「日本の電力会社にも原発は重荷になっている」「原発事業の継続に新増設は欠かせない、そのため支援の資金メカニズムが必要と電力業界は主張した」と指摘した。

費用回収スキーム

 電力業界に同意の国は、支援策として英国考案の「RAB(ラブ)」モデルに目を付けた。制度が複雑なRABモデルを簡潔に説明すると、建設工事費用などを消費者から回収するスキーム。これまで水道・ガスの公共工事やヒースロー空港の第5ターミナル建設に適用された。さらに原発をRABモデル対象にするため原発融資法を22年に制定。英国政府とフランス電力公社が折半出資し建設中のサイズウェルC原発がその第1号だ。
 日本でもあらかじめ建設費を始め諸費用を電気料金に加え費用の回収に目途をつけてから新設予定の原発工事が着手されるだろう。

都合の良い具体策

 英国環境団体などが強く反対するRABモデルの問題点について大島教授は@建設増大・遅延コストのリスクを市民に転嫁、A費用の確実な回収は電力会社のコスト意識をダウンさせる、B電力自由化に逆行、C再エネ・省エネの拡大を妨げる―などを挙げた。
 大島教授は日本版RABモデル≠「究極の原発延命策」と名付けた。モデル導入という文言だけをエネ基に入れ、制度設計はその後に行う見込み。経産省と資源エネルギー庁は作り上げた既成事実に基づき国や電力業界にとって都合のいい具体策を取り入れるのではないか。
 電気料金の大幅値上げを強いる理不尽な新原発支援制度に対し、市民は断固反対しなければならない。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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