8月19日の午後1時過ぎにNHKラジオ国際などで生放送された中国語ニュースで、中国人のスタッフがニュース原稿にない内容を発言した問題は、ついに国際放送担当理事の引責辞任、総務省によるNHKへの行政指導という事態に発展した。
問題矮小化で
傷広をげる
NHKは放送当日、直ちに報道資料を公表し、ニュースウオッチ9でも伝えた。しかし、問題を「不適切発言」とし、内容も尖閣諸島を「中国の領土である」と発言したことに限定して公表した。
いつものように問題を矮小化し、NHKの責任を小さく見せようとしたのである。
視聴者からも
抜け落ち指摘
しかし、この問題は政治家の激しい批判に晒された。
8月22日に自民党の情報通信戦略調査会での説明を求められると、NHKは発言内容に「(中国語で)釣魚島と付属の島は古来より中国の領土です。NHKの歴史修正主義とプロフェッショナルではない業務に抗議します。(英語で)南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」という内容があったことを公表し、稲葉会長が謝罪した。
議員からは「非常に深刻な問題だ」「重大な違反行為だ」などの厳しい発言が相次いだ。さらに視聴者からの指摘で、「歴史修正主義」の後に「宣伝」という言葉があったこと、「『軍国主義』『死ね』などの抗議の言葉が書かれていた」も抜け落ちていたことが明らかになった。
異常な内容の
謝罪番組放送
政治への対応に追われていたNHKは、8月26日の午後5時50分から5分間の謝罪番組を総合テレビで放送した。
この番組ではNHKが定めた「国際番組基準に抵触するなど、NHKが放送法で定められた責務を適切に果たせなかったという、極めて深刻な事態であり、深くお詫び申し上げます」というフレーズを3回も繰り返すという異常な内容だった。
さらに、中国人スタッフは慰安婦について「性奴隷」と発言したことについて、この表現は「事実に反するので使用すべきでない」、慰安婦問題は、「韓国政府との間で、両国間で解決済みである」とする日本政府の公式見解を、何の解説も付けず、あたかも客観的な事実であるかのように放送した。
「性奴隷」という言葉は国連人権委員会などの報告書などでも一般的に使われており、「事実に反する」とは言えないし、韓国政府との間で解決済みだとしても、慰安婦問題が全て解決済みとする見解には無理がある。
報道資料にも
政府への忖度
この謝罪番組は、発言内容に激しく反発する政治家に対応するために放送したものにしか見えない。NHKが8月28日に公表した報道資料には、「安全保障の観点への意識が欠けていた」との言葉を盛り込まれた。これは政府への配慮だろう。
NHKの国際放送は国が一部負担し、総務大臣は「国の重要な政策」などの事項について、国際放送を行うことを要請することができると定められている。しかし、その際にもNHKの「番組編集の自由に配慮する」ことが明記されている。NHKも「自主的な編集のもと国際放送をおこなっている」と説明している。
公正な批判と
見解はどこに
「国の重要な政策」を放送するにしても、「公正な批判と見解」のもとに伝えないのであれば、それは戦前戦中の対外宣伝放送と同様なものになってしまうだろう。そのような国際放送が、「わが国に対する正しい理解」と「国際親善の増進」に役に立つとは思えない。
NHKには自主自律を堅持して、公共放送の使命を果たしてもらいたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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