本書は著者と知己のあるガザで暮らすジャーナリストであり、研究者でもあるM氏による、昨年10月7日に起きたハマスの奇襲攻撃以来、ガザ社会で起きている現況報告が中心に据えられている。
昨年来のイスラエル軍のガザ攻撃については、報道による映像で、その一端はうかがい知ることができたが、本書は文章化された情報で、ガザの凄惨な様子を伝えている。
無慈悲ともいえるイスラエルのガザ攻撃で、この1年間に4万2千人のガザ住民が殺害された。その「地獄図」が迫力をもって伝えられる。食料品や医薬品の不足は、それらをガザの一般市民には手が届かないほど、高額な価格にしている。
M氏の家もイスラエル軍戦車の砲撃により破壊され、家族・親族が殺害 された。彼はハマスとはまったく関係がない。イスラエル軍の攻撃が、いかに恣意的で、無差別なものであるかがわかる。
イスラエルの攻撃を招いたの10月7日のハマスの攻撃だが、そのために多大な苦難を強いられているのはガザの一般市民である。
ハマスもまた他の中東諸国の為政者たちのように、権力欲が強く、力で人々を抑圧し私利を肥やし、市民を苦しめていると、ハマスへの怨嗟も語られるが、ガザ市民のハマスへの辛辣な想いは、これまであまり知られることはなかっただろう。
そのハマスの抑圧的で腐敗した支配をもたらしたのは、イスラエルの占領だ。この占領や封鎖を終わらせない限り、パレスチナ市民の安寧がない事実を、本書は切実に訴えている。(岩波ブックレット630円)
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