自民党の「裏金」疑惑への国民の批判は強く、テレビ番組の街頭インタビューでも厳しい声が多い。しかし、有権者に判断材料を提供する報道や出版物が多いとは言えない。
「週刊新潮」10月17日号は、「『安倍派潰し』では消えない『闇』 特捜部が狙う自民党都連裏金疑惑=vの特集記事を放った。石破茂首相は、裏金議員の公認問題で、自民党が独自に行った情勢調査の数字を見て、一部非公認へと判断を変えた事情を伝えている。
東京地検特捜部が水面下で自民党東京都連を捜査中という。「しんぶん赤旗」日曜版の報道をもとに、神戸学院大学の上脇博之教授が年始に東京地検特捜部に告発していた案件だ。
石破首相が予算委員会の審議を経た上で解散の考えを覆し、早期解散・総選挙に打って出た背景には、「特捜部の捜査が選挙中は止まると見越したうえで、新たな疑惑が噴き出す前に早期解散に踏み切った可能性は否定できない」と書いている。
時間的な制約で、総合誌が解散・総選挙に対応できないのは仕方がない。とはいえ、『世界』(岩波書店)11月号に宮原ジェフリー氏(選挙ライター)の「それでも解散総選挙はやってくる」を掲載したのは、編集者の先見の明であろう。
「より多くのひとが政治参加することを願って」、「選挙ライター」を名乗り、《選挙のおもしろさ》を発信してきたという宮原氏は、「『お膳立てされた政治ショー』に流されず、それが覆い隠そうとしているものを見つめるための態度を考える機会としたい」という。
疑惑を過去のものとしたい思惑が透けて見える自民党総裁選や沖縄・辺野古新基地建設をめぐる石破自民党総裁の過去の行動と発言にメスを入れつつ、宮原氏は、「そんなものだよな、と受け入れて選挙を迎えるのと(中略)理不尽な状況を意識した上で選挙に臨むのとでは、投票行動だけでなく、その後の政治の動きへの関心の向け方が変わってくるはずだ」と説く。
目の前の短期的な視点に踊らされがちな一部メディアの弱点を突き、長期的な視点の重要性を強調した好評論といえる。疑惑を覆い隠そうとする政治家たちの意図を見抜き、総選挙で国民が審判を下せる材料を提供するのがジャーナリズムの役割であろう。短期決戦を選んだ自民党は、真のジャーナリズムを恐れ、国民の考える自由と時間を奪ったのだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
2024年11月04日
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