2024年11月19日
【焦点】奇襲から1年、ハマスの正体 政治・軍事が独自行動 民衆の6割以上が支持 川上泰徳氏オンライン講演=橋詰雅博
パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに越境攻撃して1年がたった。イスラエルは報復に出て無差別攻撃を続けておりガザの子どもや女性の民間犠牲者は増える一方だ。国連総会緊急特別会合は、9月18日に米国やイスラエルなど14カ国は反対したが、非道なイスラエルに対しパレスチナ占領1年以内終結を求める決議を日本含む賛成多数で採択。法的拘束力はないが、国際世論のイスラエル批難は一段と高まっている。中東取材20年の元朝日新聞記者のジャーナリスト・川上泰徳氏(JCJ会員)=写真=は、イスラエルと戦闘を続けるハマスの実態やガザ戦争の見通しなどを9月21日JCJオンライン講演で語った。
8月に著書『ハマスの実像』(集英社新書)を出した動機について川上泰徳氏は「越境攻撃から1年、ハマスはどんな組織なのか、ガザの民衆は支持しているのか、何を目指しているのかなど日本のマスメディアの報道だけではわかりません。よく分かるような本も見当たらない。そこでこれまで取材したハマス幹部らのインタビューなどをもとにハマスの実態をこの本で明らかにした」と話した。
ハマス(アラビア語で「熱情」の意味)はイスラエルへの第一次インティファーダ(民衆蜂起)が起きた1987年12月に創設。デモなど非暴力による反占領の大衆運動を指導する政治部門と、武装闘争を実行する軍事部門に分かれ、それぞれ独立している。もちろん指導者も違うが、反占領という共通の目的に沿って独自に活動。だから政治部門幹部は「越境攻撃決行の日を知らなかったのでは」と川上氏は推測する。
慈善運動も展開
またガザのハマス系イスラム協会、イスラム・センター、サラーハ協会は、病院やコンピュータ教室の運営、食料配布、孤児支援など慈善運動を展開している。こちらも独立している。2006年1月のパレスチナ自治評議会選挙でハマスは過半数の議席を獲得し、PLO(パレスチナ解放機構)主流派のファタハに勝った。 ハマスは武力闘争が主体のアルカイダやイスラム国(IS)のような「テロ組織」とは異なるようだ。
ただ米国やEUは選挙に勝利したハマスを認めず、国連も依然としてPLOをパレスチナの代表機関として認めている。こうした経緯もあってハマスはパレスチナ自治政府領の飛び地ガザを、ファタハは同政府領のヨルダン川西岸を統治した。
二国共存が着地点
越境攻撃が引き金でイスラエルの攻撃によっておびただしい民間人の死傷者が出ていてもガザの民衆の6割以上はハマスを支持しているという。その理由を川上氏は「パレスチナの中でハマスだけがイスラエルに徹底抗戦を続けている」「民衆の多くは、イスラエルに命乞いして生き延びたとしても生きるに値しないと思っている」と語った。
第3次中東戦争後の67年国連安保理は「西岸、ガザ、東エルサレムからイスラエルは撤退し、パレスチナ国家樹立」と「イスラエルの生存権をアラブ諸国も認める」決議を採択した。この「二国家共存」がハマスの着地点だ。一方、イスラエルのネタニヤフ政権はパレスチナ国家樹立を認めていない。このままではガザ戦争は終わらない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
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