検察が危機的状況だ。組織として壊れている。
強盗殺人罪で死刑が確定していた袴田巌さんの再審無罪が確定するタイミングで、検察トップの畝本直美検事総長が10月8日に公表した談話は、そのことを如実に示した。再審手続きが長期化したことには「申し訳なく思う」と記したが、中心は無罪判断への批判。「それでも犯人は袴田さん」と後ろ指を差すに等しい内容だ。
再審開始に至る中で検察側の主張は退けられていたのに、「敗者復活戦」と言わんばかりに有罪主張を維持したことも正当化。刑事司法の根本にある「無罪推定」や「疑わしきは被告人の利益に」の原則を、検事総長が否定したようなものだ。
畝本検事総長は前職の東京高検検事長長当時には、自民党派閥パーティー券裏金事件の捜査を指揮。東京地検特捜部は、組織的な裏金作りの経緯や、不正な会計処理への政治家の関与を解明することなく、極めて甘いとしか言いようのない処分で捜査を終わらせた。
自民党議員が多数を占める国会で「政治とカネ」の是正は望めないからこそ、民意も徹底捜査を期待したのに、検察はいとも簡単に裏切った。
さかのぼれば、森友学園への国有地払い下げや、安倍晋三元首相側の「桜を見る会」の会計処理など、政治絡みの疑惑では検察は腰が引けた姿勢が際立っていた。
とどめは元大阪地検検事正による部下への性的暴行だ。10月25日の初公判では事後、口止めを図っていたことが明らかになった。被害者は会見し、検察組織内でセカンドレイプにさらされたことも証言した。
問われるべきは第一に検察自身だが、強大な権限を持っているからこそ独立の立場が重んじられる組織。そこに新聞が検察を監視する意義があるが、役割を果たしているだろうか。
袴田さんの無実を否定する内容の検事総長の談話を、新聞各紙は一斉に「謝罪」と報じた。
裏金事件では、各紙は捜査の動きを追うことばかりに熱心だった。端緒が「しんぶん赤旗」の調査だったことに触れた新聞もほとんどなく、報道には検察礼賛の色彩すら感じられた。
検察の極限までの腐敗は、新聞が監視と批判を怠ってきたことの裏返しではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
2024年12月01日
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