2025年01月03日

【おすすめ本】佐滝剛弘『観光消滅 観光立国の実像と虚像』─人の暮らしが消える観光、その弊害と対策への警鐘=栩木誠(元日経新聞編集委員)

 今やインバウンドが一般語化し、各地にあふれる外国人観光客の話題が連日、テレビや新聞をにぎわせ、日本礼賛が連発される。まさに「観光立国」日本。2024年上期の訪日観光客数は、1778万人で過去最高を更新した。暗い話題が満載の世に、あたかも一筋の光明であるかのようだ。
 その反面、京都や東京をはじめ訪日客の増加により、物価高騰や公共輸送機関の混乱など、市民生活を脅かすオーバーツーリズムの弊害が、顕在化している。表面的には外国人であふれかえる京都市は、実際は人口減が全国の都市でも最大規模で、「京都人が京都に住 めなくなる」事態すら生じている。

 ジャーナリズム出身の観光学研究者による本書は、豊富な具体例を示し「魅力的だから賑わっているわけではない」観光立国の負の側面に切り込む、“警醒”の1冊。
 特に「観光立国とは、言い換えれば『観光に頼らざるを得ない国』というニュアンスが含まれる」との指摘は、半導体分野での後退が著しい、日本の現状を端的に示す。

 全国の観光地を直撃する自然災害の頻発、輸送やサービスに暗い影を落とす人手不足など、「頼らざるを得ない」観光を消滅しかねない難題が山積する。しかし、政府の対応は鈍いままだ。
 中国の四書五経の一つ「易経」にある「観国之光」が表すように、その地に住む人が誇りを持ち、幸せに暮らせてこそ、訪れる人も喜びを感じるのである。「人の暮らしが消えて観光資源だけが残っても、そこはもはや観光地ではない」。本書の警鐘が現実化しない取り組みが、喫緊の課題となっている。(中公新書ラクレ900円)
                
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posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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