2025年01月06日
【24読書回顧―私のいちおし】精神医療に風穴をあけるために 木原育子(東京新聞記者)
変わらぬ精神医療に風穴をあけるべく今秋、一冊の書籍が刊行された。大熊由紀子編著『精神病院・認知症の「闇」に九 人のジャーナリストが迫る』(ぶどう社)だ。年 代も活躍する媒体も違うが、それぞれの視点で精神医療の現在地と未来を語っている。
私も記者のかたわら、社会福祉士と精神保健福祉士の資格を持ち、福祉ジャーナリズムを志している。幸い共著者のひとりに加えてもらった。
本書には、40年間精神科病院に入院していた伊藤時男さんと2人のジャーナリストによる鼎談も収載された。岩盤のような社会課題を打ち破るためには、職域を超え同じ問題意識を持つ者が協同するのは大切だと思う。
どうすれば身体拘束がなくなるか、社会のスティグマ(負の烙印)が消 えるのか。その問いに本気で向き合うべき時期に来ている。多くの人々が是非、手に取 ってほしい至極の1冊だ。
次に私の読書から心に残るのは、写真絵本「は たらく」シリーズ (創元社)。「はたらく本屋」 「はたらく中華料理店」など、職場で働くひとりの一日を写真と文字で表現している。職場紹介ではなく、いかに「はたら く」ことが尊いかを繊細な筆致と躍動感ある写真で伝えてくれる。
それはくしくもスウェーデン発祥のLLブックを彷彿とさせる。知的障害や発達障害など、文章を読むのが苦手な人に、大きな写真と端的な文章は、誰もが平等に情報を得る権利、それを保障している本づくりがいい。
最後は政治学の分野から山本圭『嫉妬論』(光 文社新書)を挙げたい。 嫉妬というやっかいな感情が、いかに社会に交錯し、政治に深く関与してきたか、明快に書き綴っている。誰もが少なからず持つ嫉妬、その人間らしい感情を軸に、少し難解に思える政治思想の分野も、筆者特有のユーモアで切り取る思考は、読むに値する一冊だ。
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