2025年01月09日

【24読書回顧―私のいちおし】報道の信頼は現実への潜入から=澤 康臣(早稲田大学教授)

澤 康臣・顔写真.jpg

 2024年の東京都知事選や衆院選、兵庫県知事選で、SNSが既存の報道メディアを凌駕したと指摘される。
 特に兵庫県知事選では報道メディアは攻めの姿勢を欠いた。「選挙結果 に影響を与えない」ためなどの理由は、米国などでは成り立たない。投票に影響を与えないとは、有権者の判断に役立たないという意味しかない。

 頼られる報道はどうあるべきか。まずフリージャーナリストの横田増生『潜入取材、全手法』(角川新書)を挙げたい。身 分を隠して取材対象に入り込む潜入取材は英BBCの得意技だが、日本での名手が横田氏である。アマゾンやユニクロを始め、米国トランプ選挙まで潜入した。
 本書は題名から想像するノウハウ本ではなく、ジャーナリズムの基本、すなわち批判精神と取材姿勢、記者が知るべきメディア法、日常の情報収集術などを伝える好著。
      
「潜入取材、全手法」澤 康臣・本文収載.jpg

           

 中国新聞「決別 金権政治」取材班『ばらまき 選挙と裏金』(集英社文 庫)は、広島の中国新聞 が河井克行・案里夫妻の選挙買収事件を追い、関係者多数に食い下がって真実に迫ろうともがくドキュメントだ。
 ハイライトは文庫化で新収録された「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」というメモ。だが 見逃せないのは、買収された地方議員の親族が、地盤を継ぎ立候補したと記事に記すと「選挙妨害じゃろう」と非難されても、中国新聞は「事件に 一切触れず」にいることが「『公正公平な選挙報 道』とは思えない」と言 い切ることだ。

 津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(ちくまプリマー新 書)は、公共、寛容、分 断、マスメディア批判、民主主義について研究を紹介・分析する。まさにメ ディア学のエッセンス。
 他者への接触が「迷惑」とされる個人化社会で、そもそも取材は迷惑だとされる前提に立てという指摘は評者も共有する。
 報道の信頼は「行儀良さ」より戦闘的ジャーナリズムにこそあるのだ。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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