2025年01月10日

【リレー時評】PFAS汚染 放置してはならない=中村 梧郎

  1967年7月29日、ベトナム戦争に出撃した米空母フォレスタルがトンキン湾で炎に包まれた。甲板上には北爆に向かう艦載機が燃料と爆弾を満載して待機していた。その時なぜかF4ファントムがロケット弾を誤射。それは友軍機に命中、連鎖反応のように爆弾も炸裂した。流れ出た燃料は20機を包み甲板は火の海と化した。

 US・NAVAL研究所によれば、この事故でパイロットを含む134人が焼死、数百の水兵が重傷を負っている。消防隊員は全滅。慌てた兵らが火炎めがけて放水した結果、燃える燃料は水に浮いて甲板穴から船内に流入、多数が焼死した。鎮火に効果的だったのは泡消火剤であった。

 これを教訓として米軍は消防対策を改変、「全軍が泡消火剤を完備せよ」との指令を出した。こうして、米国内だけでなく世界に展開する米軍基地の全てでPFAS泡消火剤を使用することとなった。人体影響はまだ不明なときだった。
 PFASの撥水性が好都合と、デュポンは焦付き防止フライパンを発売、ハンバーガーの包装紙などにも使われた。
 PFAS はフッ素の有機化合物で1万余の種類がある。そのうちで特にPFOAとPFOSに発がん性が懸念されるとWHO が先年発表した。
 米国は厳しい対応を始めた。飲み水や地下水に対してPFOAとPFOSそれぞれ4㌨c/㎖という規制値を定めた。規制だから判ればすぐ措置しなければならない。ところが日本は合計50㌨cを上限目標値とした。目標にすぎないから発覚しても放置できる。

 この11月末、政府は全国の水道水3755カ所の調査結果を公表した。各紙とも概ね「目標値を超えていない」と書き、安全宣言とおぼしき報道となった。だが、アメリカの規制値を当てはめると多くの地点で遥かに超えているのである。
 岡山県吉備中央町では浄水場で目標値の16倍の汚染が4年前に見つかった。それが町民には知らされず、皆が水道水を飲み続けるという事態となった。取水源を変えたため、事態はおさまったが、その間の集団汚染に国は責任を負わない。

 危険はがんだけではない。環境中で分解せず、人体に蓄積する。ダイオキシン同様「永遠の化学物質」と呼ばれる。懸念は胎児への影響や脂質異常、免疫力低下にもある(NAS 2022)。
 重大なのは沖縄や本土の米軍基地からのPFAS漏洩が続いている点である。日米地位協定があって基地に立ち入れないからと、政府は調査しようとさえしない。横田基地からの滲出で、東京都の地下水はほとんど汚染されてしまった。各務原など自衛隊基地からの汚染も起きている。加えて半導体工場、産廃処理場からの漏出もある。
 国民の命が脅かされる問題である。規制は急がれなければならない。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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